研究課題
28年度は、本研究の検討項目のうち、福島第一原子力発電所事故で環境中に放出されたセシウムを吸着・固定している粒子の性状や鉱物を明らかにし、汚染土壌からその鉱物フラクションを効率よく分離して土壌の減容化を可能とする分級方法の検討を継続した。その結果、以下のことが明らかとなった。①産地の異なる土壌からセシウムを固定化している粒子を分離し、高分解能透過型電子顕微鏡で詳細に観察したところ、放射性セシウムを多く含有している粒子は、鉱物の凝集態、有機物と鉱物の複合体、風化雲母片、ガラス質の球状物質に大別されることが明らかとなった。ただし、球状物質は土壌中に発見するのが困難なことから、全体への寄与は大きくないと考える。②濃集土壌粒子の内部を観察したところ、吸着・固定している鉱物は、バーミキュライト成分を含む風化雲母と鉄スメクタイトであり、多くは風化雲母であった。これらは、放射性セシウムを用いて、実際の放射性セシウム濃度と同じくらいの溶液で吸着実験をしても同様な結果が得られ、風化雲母が最も選択性が高く、風化雲母を排除して実験すると、鉄スメクタイトに選択濃縮することも判明した。③セシウムを多く含有している粒子中で風化雲母と鉄スメクタイトは、構成粗粒鉱物の周りに付着している「核岩タイプ」と細粒鉱物どうしが有機物とともに結合している「団粒タイプ」として存在していた。④上記の両タイプともに、高度に分級するためには、ターゲットとなる鉱物を剥離して分散することが重要であり、そのためにはポールミルや超音波等が有効であることが判明した。また、実汚染土壌を用いてそれらの最適分級条件を検討した。⑤高度に分級することによって、放射性セシウムが濃集している細粒部は集められるが、粗粒部分に残留する風化雲母は磁選によって効率的に回収できることが判明し、その最適分級条件を検討した。
2: おおむね順調に進展している
実施している内容に関しては、実施後に新たな課題として見出されたものもあるが、そもそも困難な課題を実施していることから想定内のものである。特に、当初は電子顕微鏡によって放射性セシウムを吸着・固定している鉱物の特定を研究の中心に据えていたが、事故直後から指摘されていたガラス質の球状ガラスに含まれるタイプのセシウムに関する詳細な情報を得られた意義は大きいと考える。この存在形態を減容化の考慮に入れるべきかどうかについては思案している最中である。他の研究内容も含め、全体的にはおおむね順調に進展していると判断した。
平成28年度は、森林土壌以外にも、農耕地やため池等の土壌中に含まれる放射性セシウム粒子の観察を数多く実施したが、その粒子の性状は初期に分類したものと同様であった。平成29年度は、さらに浸出挙動の異なる土壌中の粒子の比較を行い、放射性セシウムを選択的に吸着・固定している鉱物の一般化と、固定化されていない場合のセシウムのホストの理解を図りたい。その上で、その鉱物を効率よく分離する分級方法を、現存する実機を組み合わせることで実現する方向で検討を進め、環境省が実施している汚染土壌の減容化や再利用の方策に資するデータの収集に努めたい。
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