研究課題
室温10MPaの条件下で,①貯留層コアに対する圧入性評価、②貯留層コア内における粘性特性評価を実施し、③塩およびpHに対する耐久性評価、④分子動力学計算のためのCNFと塩水の分子モデルの構築を実施した。また,貯留層温度での予備実験を実施した。①貯留層コアに対する圧入性評価では,直径1インチ,長さ45mm,空気浸透率500mdレンジのベレア砂岩コアに対してCNF懸濁液を圧入し,コア上下流の差圧をモニタリングした。その結果,CNF懸濁液の圧入にともなって差圧が上昇し,コアの閉塞が進むことがわかった。また,ポリアクリルアミド(PAM),カルボキシメチルセルロース(CMC)の水溶液に比べて,差圧の上昇が早期に始まり,その上昇率も大きいことがわかった。したがって,②貯留層コア内における粘性特性評価ではベレア砂岩を用いず,反射式液面計にガラスビーズを詰めた可視化貯留層モデルを用いた。このモデルにCNF懸濁液を一定流量で流し,その時の差圧からダルシー則を用いて見かけ粘度を求めた。その結果,CNF懸濁液の流量が増加するにつれ見掛け粘度が低下する傾向が見られた。これは,流量が増加すると多孔質内でのせん断速度が大きくなり,懸濁液中のCNFの絡み合いが解れるためだと考えられる。③塩およびpH に対する耐久性評価では,純水系、塩水系(NaClおよびCaCl2)、pH3~11の範囲でCNF懸濁液の粘度測定を行った。その結果,塩濃度が高くなるほど粘度が低下し,pHも6以下になると急激に粘度が低下することが分かった。また,既存のグアガム、CMC、キサンタンガム、PAMに比べるとCNF懸濁液の耐塩性、耐pH性は低いことがわかった。④分子動力学計算のためのCNF と塩水の分子モデルの構築では,実際のCNFに合わせた分子モデルを構築すると分子が大きすぎシミュレーションができないことが分かった。
2: おおむね順調に進展している
計画では,平成27年度に室温10MPaの条件下で,①貯留層コアに対する圧入性評価、②貯留層コア内における粘性特性評価を実施し、③塩およびpHに対する耐久性評価、④分子動力学計算のためのCNFと塩水の分子モデルの構築を実施することとしており,研究実績の概要に記したとおり概ね計画どおりに進めることができた。しかし,CNF懸濁液の貯留層コアへの圧入性が低いことが判明したことから,次年度に計画していたCNF懸濁液によるポリマー攻法実験および止水実験の前に,CNF懸濁液の圧入性を向上させる必要がある。また,分子動力学計算のためのCNFと塩水の分子モデルの構築については,分子動力学計算を行えるモデルの構築は困難であることから,方針を変更する必要がある。一方,貯留層温度での予備実験を実施したところ,80℃において、CNF懸濁液の粘度は時間の経過とともに徐々に低下し、10日後には約半分となり,他の増粘剤と比較して中程度であることがわかった。さらに,135℃で静置保存した場合、他の増粘剤は粘度を大幅に低下させるのに対してCNF懸濁液は逆にゲル化することがわかった。
CNF懸濁液の貯留層コアへの圧入性が低いことから,CNF懸濁液の圧入性を向上させる必要がある。そのために,同濃度のCNF懸濁液より粘度は低下するものの,紫外線照射あるいはセルロース分解酵素を用いた短繊維化処理を施しその効果について評価する方針である。その効果が確認できれば,それを用いたポリマー攻法実験および止水実験を実施し,石油増進用増粘剤としてのCNF懸濁液の適用性を判断することとする。また,分子動力学計算のためのCNFと塩水の分子モデルの構築については,CNFの挙動は見ることができないが,CNF分子の一部を取り出した分子モデルを再構築して分子動力学シミュレーションを実施し,その表面近傍における塩分子(イオン)の挙動からCNFの凝集について考察する。また,CNFの表面修飾による耐塩性向上の可能性についても検討する。
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