研究課題/領域番号 |
15H04235
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研究機関 | 核融合科学研究所 |
研究代表者 |
加藤 太治 核融合科学研究所, ヘリカル研究部, 准教授 (60370136)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 核融合プラズマ診断 |
研究実績の概要 |
高温プラズマ中の重元素多価イオンで起こる磁気双極子(M1)遷移による可視域の発光線は、核融合プラズマ診断法として他にない優れた特長を持つ。国際熱核融合実験炉(ITER)のプラズマ対向壁材料にタングステンが使用されることが決まり、電子ビームイオントラップを用いたタングステン多価イオンの発光線データ取得が世界各国で活発に行われている。その中で、我々の研究グループは世界に先駆けて可視域M1線に注目して発光線の同定を精力的に進め、そこで得られた知見に基づき、可視域M1線を用いた核融合プラズマ診断法を確立するとともに、衝突・輻射モデルによる計算と実験との比較を通して、これまで不確定であったタングステン多価イオンの原子過程データの評価を行っている。 本年度は、可視域M1線を用いたプラズマ中でのタングステン多価イオン診断法の確立に必要なプロトン衝突断面積および速度係数の近似計算プログラムコードを作成し、これを用いてタングステン多価イオンのデータを推定した。このデータを含めた衝突・輻射モデルを用いてタングステン27価イオンの励起状態分布と可視域M1線の発光強度を計算し、それらにおけるプロトン衝突効果を定量的に予測することができた。この結果に基づき、大型ヘリカル装置(LHD)で測定された可視域M1線の発光強度から、タングステン27価イオン密度の空間分布と中心プラズマでの輸送を実験的に測定することに成功した。 また、連携研究者(中村信行:電気通信大学、坂上裕之:核融合科学研究所)により電気通信大学の小型電子ビームイオントラップ(CoBIT)を用いて低価数のタングステン多価イオンからの可視域発光線の新たな同定が行われ、可視M1線を用いたプラズマ診断の適用温度をより低温領域まで拡張した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
連携研究者(中村信行:電気通信大学、坂上裕之:核融合科学研究所)によりCoBITを用いてタングステン多価イオン発光スペクトルの測定が実施された。新たな可視域M1線の同定が行われ、計測に利用できる発光線スペクトルデータベースの構築が進んだ。衝突・輻射モデルによるスペクトル計算を行い、実験スペクトルと比較しデータ評価とモデルの検証を行った。 LHDの軽水素プラズマ実験で、タングステン多価イオンからのM1線の発光線強度の空間分布および時間発展を測定した。これに基づき衝突・輻射モデルを用いて、中心プラズマでのタングステン27価イオンの密度分布と輸送過程を測定することに成功した。また、年度末にLHDでの重水素プラズマ実験が開始され、連携研究者(後藤基志、森田繁:核融合科学研究所)により発光計測システムの配置換えや中性子遮蔽の対策が施され、予備実験を行った。現在は取得した実験データを解析中である。 タングステン多価イオンのプロトン衝突速度係数の簡易計算コードを開発し、プロトン衝突効果を考慮した衝突・輻射モデルの構築を行った。現状では数倍程度の誤差を含むが、可視M1線発光強度におけるプロトン衝突の効果を定量的に見積もることができた。 これらの研究成果については、IAEA主催の核融合エネルギー国際会議などで論文発表を行った。以上、当初計画に沿って研究はおおむね順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
CoBIT実験による可視域M1線のスペクトルデータベースは昨年度までにおおむね整備されたので、今後はLHDでの重水素プラズマ実験での測定を重点的に実施し、水素同位体効果や高エネルギーイオン衝突効果の検証を目指す。重水素プラズマ実験で発生する中性子により検出器に若干ノイズが重畳することが昨年度末の予備実験で分かったが、このノイズは解析ソフトで除去できる。また、中性子遮蔽のために計測システムの配置換えが行われ、観測ポートが変更になり、これに伴って発光を測定するプラズマ断面の形状も変更になった。これについても、発光分布解析のためのプログラムコードに修正を加えることで対応できる。 タングステン27価イオン密度分布と輸送の測定で確立した手法を応用して、他の価数のタングステン多価イオン密度分布の測定も行い、LHDプラズマ中での空間的なイオン価数分布を明らかにする。独立に測定するプラズマの電子温度と密度の空間分布と照らし合わせることにより、本手法で用いているタングステンイオンの電離/再結合速度係数データと本手法の精度の評価を行う。 基底状態のM1線発光強度の計算に必要なタングステン多価イオンの水素イオン(陽子、重陽子)衝突速度係数の計算プログラムコードの開発を継続して行う。昨年度までに開発した簡易計算では、速度係数データに数倍程度の不確定性が見込まれるため、より高精度な計算方法に基づいた新しい計算プログラムコードを開発することで、誤差を10パーセント程度まで抑える。
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