核融合科学研究所の大型ヘリカル装置LHDにおいて、統計的磁気面領域からダイバータへ至る熱・粒子輸送機構の理解を大きな目的とした研究を進めている。特に本研究では、ダイバータ板上の熱・粒子束分布の放電中の変化に着目し、3次元プラズマ輸送流体シミュレーションコードEMC3-EIRENEを用いて分布変化を再現することにより、統計的磁気面領域からダイバータへの熱・粒子輸送のモデリングを目指した。 昨年度までに、本研究課題申請時に予定していた、EMC3-EIRENEコードの磁力線垂直方向の拡散係数・熱伝達係数に電子温度や磁場強度に対する依存性の導入を行った。しかしながら、シミュレーションでは、実験で観測されている分布変化は得られなかった。 今年度は、これまでにLHDで得られているダイバータ部の静電プローブデータの見直しを行った。10カ所各20チャンネルの静電プローブにおける粒子束分布の変化と、上流である周辺プラズマパラメータの関係について、固有値直交分解を用いた多変数分析を行った。これまでに、熱・粒子束分布は、上流の電子温度がある程度高い場合に変化することが分かっていたが、今回の解析から、閉じた磁気面周辺部のプラズマ圧力の勾配が分布変化に影響していることが分かった。プラズマ圧力勾配が大きい場合、分布はEMC3-EIRENEを用いたシミュレーションでは再現できない分布となっている。シミュレーションでは、プラズマ圧力を無視した真空条件の磁力線構造を用いているが、閉じた磁気面周辺部の圧力勾配が高まると、圧力勾配で駆動される電流により磁力線構造が変化し、そのためダイバータにおける熱・粒子束分布がシミュレーションでは再現できなくなると考えられる。統計的磁気面領域からダイバータへ至る熱・粒子輸送を理解するためには、このような磁力線構造の変化も考慮に入れる必要があることが明らかとなった。
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