研究実績の概要 |
炉心冷却水の環境把握と制御はプラントの長期健全性確保に必要不可欠である。放射線照射に伴う水の改質が、応力腐食割れや放射能移行に直結するため、支配因子であるH2O2やその前駆体の初期分解生成物(H, OH, e-aq)を含めた水分解反応機構の解明が必須である。しかし初期生成物は反応性が高く短寿命であるためこれまで計測が容易ではなく、次世代軽水炉の稼働条件である超臨界状態(>374 oC, >22.1 MPa)における放射線化学的知見は極めて断片的である。本研究において量子ビームを駆使し、実機では不可能な超高速時間分解測定や照射場の直接観測の両面から反応機構を追求すると共に、これに基づく反応動力学計算から超臨界水の放射線分解反応を体系化することを目的とする。電子線形加速器施設において、試料を高温高圧に保つためのフロー型高温高圧分光セルを導入し、ピコ秒領域を計測するためのパルスプローブ方式、およびナノ秒領域を計測するためのKinetic方式に基づく2種類の高時間分解分光測定系を構築しパルスラジオリシス実験を行った。水和電子を測定対象として、超臨界状態の様々な温度圧力下におけるに時間挙動を測定した結果、照射後1ナノ秒以内に約30%の減衰が見られ、高速なスパー反応過程が進行することが分かった。ピコ秒における放射線化学収量(G値)を評価した結果、温度および圧力によって変化し、特に臨界点近傍では圧力依存性(密度依存性)が顕著であることも分かった。他溶媒も用いたソルバトクロミック効果測定から、スペクトルシフトの極性依存性が超臨界水のみ異なることから、局所密度効果によって溶質-溶媒相互作用も空間的に不均一となることも分かった。
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