研究課題
原子炉・核融合炉構造材料の照射下劣化の主要因は、照射誘起格子欠陥の蓄積である。本研究では、原子空孔の反発相互作用という従来の常識に反する現象を利用して、照射による欠陥蓄積を顕著に抑制する新たな原理を確立することを目標とする。この目標を達成するためには、あらゆる種類の欠陥の生成・移動・相互作用といった挙動についての基礎的な知見が必要である。そこで先進電子顕微鏡法を駆使し、耐照射構造材料のモデル金属・合金を対象として、(I) 各種欠陥の生成・移動・相互作用についての未解明な挙動を解明し、(II) それらの知見を基にして、原子空孔の反発相互作用が点欠陥集合体蓄積過程をどのように抑制するかを明らかにすることを目的とする。上記の研究目的を達成するために、以下の研究項目を設定した。具体的な研究項目は、以下のとおりである。(I) ① ナノサイズ欠陥の挙動、② サブナノサイズ欠陥の構造、③ 点欠陥の挙動、④ 点欠陥と転位の相互作用(転位バイアス)、⑤ 重粒子照射による初期損傷構造、(II) ⑥ 原子空孔の反発相互作用の点欠陥集合体蓄積過程への効果。これらの研究を進める上で、各種のモデル金属・合金に対し、高エネルギー電子および自己イオン照射を行う。照射装置はそれぞれ、二種類の超高圧電子顕微鏡およびイオン加速器結合型電子顕微鏡とし、照射下での欠陥挙動の動的直接観測を行う。これらの研究項目のうち本年度は、項目①、②、③、⑤において顕著な成果が得られた。例えば項目①では、重要な照射誘起点欠陥集合体である転位ループの上昇運動拡散の機構を明らかにし、その成果が論文化された。項目③では点欠陥の一種である自己格子間原子の高速移動過程を検出し、その成果が論文化された。これらの成果の一部に基づいて、国際会議での招待講演を4件おこなった。
1: 当初の計画以上に進展している
設定した研究項目(① ナノサイズ欠陥の挙動、② サブナノサイズ欠陥の構造、③ 点欠陥の挙動、④ 点欠陥と転位の相互作用(転位バイアス)、⑤ 重粒子照射による初期損傷構造、⑥ 原子空孔の反発相互作用の点欠陥集合体蓄積過程への効果)のうち、初年度である本年度は研究項目①、②、③、⑤を遂行し、その全てにおいて進捗は順調であった。項目①では、重要な照射誘起点欠陥集合体である転位ループの上昇運動拡散の機構を明らかにし、その成果が論文化された。項目②では、昨年度に得られた著しい成果を踏まえて研究を深化させるための電子顕微鏡特殊試料ホルダーの開発を行った。項目③では点欠陥の一種である自己格子間原子の高速移動過程を検出し、その成果が論文化された。項目⑤では、自己イオン照射が転位ループを異常安定化させることを明らかにした。この成果については、現在論文投稿の準備を行っている。これらの成果の一部に基づいて、国際会議での招待講演を4件おこなった。
設定した研究項目(① ナノサイズ欠陥の挙動、② サブナノサイズ欠陥の構造、③ 点欠陥の挙動、④ 点欠陥と転位の相互作用(転位バイアス)、⑤ 重粒子照射による初期損傷構造、⑥ 原子空孔の反発相互作用の点欠陥集合体蓄積過程への効果)のうち、最終年度である次年度は、今年度までに特に顕著な成果のあった研究項目②に重点を置いて研究を進める。このために昨年度来進めてきた装置開発-実験条件の最適化を推し進める。また並行して他の研究項目も進展させる。なお研究項目⑤で使用する国外(フランス)の実験施設については、本年度に引き続き次年度の使用申請がA評価で採択されたので、問題なく使用できる予定である。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 4件、 招待講演 8件) 備考 (1件)
Scientific Reports
巻: 6 ページ: 30596(8 p)
doi:10.1038/srep30596
Physical Review B
巻: 94 ページ: 024103(15 p)
doi.org/10.1103/PhysRevB.94.024103
巻: 6 ページ: 26099 (10 p)
doi:10.1038/srep26099
http://tem-defect.jp/index.html