研究課題
環境中における放射性核種の移行挙動を評価するにあたってはこれまでに鉱物-水反応について精力的に研究が行われてきた。微生物もまた鉱物と同様に放射性核種を吸着し固定することにより移行遅延をもたらすと考えられている。一方で、微生物細胞からは様々な有機分子が分泌されるが、そのような微生物由来生体分子と放射性核種の相互作用についてはほとんど研究がなされていない。本研究課題では、これまでほとんど注目されてこなかった微生物が放出する“細胞外”生体分子のうち錯体を形成しアクチノイドの可溶化を促進する物質、及び電子授受により還元反応を促進する物質(電子メディエーター)の二つに着目した。本研究計画の目的はこれらの物質が1)どのような微生物種により放出されるのか、2)どのような物質であるのか、そして3)アクチノイドの移行挙動にどの程度の影響を与えるのかを具体的に明らかにすることである。マンガン酸化真菌を用いて層状マンガン酸化物を形成させた。マンガン酸化物と微生物細胞を分離せずにそのままアクチノイド(U,Th)の吸着実験を行った。微生物の活性状態の有無により吸着挙動に影響がでるかどうかを調べるために、滅菌処理した場合と滅菌処理をしない場合のそれぞれにおいて吸着実験を行った。未滅菌のマンガン酸化物を用いた実験系では、Th(IV)が時間とともに脱着していく様子が観察された。一方で、滅菌処理を行った系ではこのようなTh(IV)の脱着は見られなかった。溶存炭素濃度の分析からいずれの系においても微生物細胞から有機物が分泌されていることを確認した。これらのことは微生物が活性状態(生きている)においてのみ、特異的な有機分子を分泌し水溶液中においてTh(IV)と安定な錯体を形成したことを示唆している。
2: おおむね順調に進展している
今年度の研究計画ではアクチノイドと錯体を形成する有機物を放出する微生物を用いてアクチノイド吸着実験を行い基礎データを取得することを目標としていた。研究実績の概要でも述べたとおり、微生物の活性状態の有無等の微生物がアクチノイド吸着に与える影響について重要な成果を得ることができた。以上のことから、研究計画をおおむね順調に進んでいると言える。
今後は微生物が分泌した有機分子がどのような物質であるのかを調べる予定である。また、モデル物質を用いた電子メディエーターによる六価ウラン還元反応に関して実験進める。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件)
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