研究課題/領域番号 |
15H04252
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
吉田 隆 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (20314049)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 超伝導 / 磁界 / 縦磁界効果 / 臨界電流 / ピンニング |
研究実績の概要 |
我々はこれまでに、人工ピンニングセンター(APC)をナノレベルで制御して導入したREBCO超伝導薄膜において縦磁場効果によるJcのピーク向上を報告した。この薄膜はAPCを含む層と含まない層を制御して多層化した構造を有しており、この構造を系統的に変化させることで、Jcピークが発現する条件を探索、特定した。縦磁場下においては量子化磁束に大きなローレンツ力は生じないが、自己磁場に起因して回転運動することが考えられる。この量子化磁束の回転運動を効率よくピン留めできる三次元的なAPCの存在がJcピークの発現に寄与している、と推察した。 本年度は、さらにケーブル応用に向けたより簡素な薄膜構造の探索とJcピークの発現に寄与する根本的な要因を特定するために、薄膜作製条件を変化させ、その過程で自然に導入される結晶欠陥等による磁束ピンニングに関して検討した。APCを導入していないREBCO薄膜において、測定環境温度を低下させるにつれ、縦磁場中のJcが向上することを確認した。さらに、量子化磁束の回転運動及び磁束ピンニングに対してより詳細に理論構築するために、計算機シミュレーションによる磁束運動の可視化を検討した。縦磁場下において量子化磁束をピン留めできる効率的なAPC形状の検討を行い、概ね実験結果に沿った三次元的なAPCの存在が有効であることが示された。さらに量子化磁束の回転運動及び磁束ピンニングに対してより詳細に理論構築するために、計算機シミュレーションによる磁束運動の可視化を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
縦磁場効果はNb-Ti等の低温超伝導体において半世紀以上前から報告がなされていた。なかでも、弱磁場中においてゼロ磁場に対して臨界電流密度(Jc)がピークを持って大幅向上する現象が知られていた。この現象を超伝導電力ケーブルに利用できれば大幅な電力容量の増大が見込めるが、次世代超伝導線材として期待される高温超伝導体(REBa2Cu3Oy, REBCO)においては縦磁場効果に関する報告がほとんどなく、Jcピークの発現メカニズムは不明瞭であった。 我々はこれまでに、人工ピンニングセンター(APC)をナノレベルで制御して導入したREBCO超伝導薄膜において縦磁場効果によるJcのピーク向上を報告した。縦磁場下においては量子化磁束に大きなローレンツ力は生じないが、自己磁場に起因して回転運動することが考えられる。この量子化磁束の回転運動を効率よくピン留めできる三次元的なAPCの存在がJcピークの発現に寄与している、と推察した。 本年度は、さらにケーブル応用に向けたより簡素な薄膜構造の探索とJcピークの発現に寄与する根本的な要因を特定するために、薄膜作製条件を変化させ、その過程で自然に導入される結晶欠陥等による磁束ピンニングに関して検討した。APCを導入していないREBCO薄膜において、測定環境温度を低下させるにつれ、縦磁場中のJcが向上することを確認した。これは薄膜内の積層欠陥が、環境温度の低下に伴い細くなる量子化磁束のピン留めに寄与したためであると推察される。しかし、多層構造のようにAPC導入や薄膜構造を制御できないため、系統的にJcピークの発現する条件を特定するには至っておらず、また、液体窒素温度下においてJcピークは観察されていない。これより液体窒素運用によるケーブル応用には、最適なサイズ及び形状のAPCの導入をより簡便に行うことが必要であると示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
本年度量子化磁束の回転運動及び磁束ピンニングに対してより詳細に理論構築するために、計算機シミュレーションによる磁束運動の可視化を検討した。縦磁場下において量子化磁束をピン留めできる効率的なAPC形状の検討を行い、概ね実験結果に沿った三次元的なAPCの存在が有効であることが示された。新たな縦磁場効果を用いた超伝導電力ケーブルの考案や、継続して上記の計算機シミュレーションによる最適薄膜構造の探索を行う。縦磁場効果によるJcピークの発現有無を系統的に調査した薄膜構造は多層構造のみである。しかし、ケーブル応用に向けた長尺線材において多層構造を実現することは非常に困難である。理想的である多層構造より簡素な薄膜構造で、かつJcピークの発現する条件を探索することが、縦磁場効果を利用した超伝導電力ケーブルの実現には有意義である。
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