研究課題/領域番号 |
15H04256
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山口 正洋 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (60313102)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 嗅球 / 嗅皮質 / 神経新生 / 匂い入力 / 中枢性入力 |
研究実績の概要 |
嗅覚一次中枢の嗅球では成体においても新しく生まれたニューロンが神経回路に組み込まれ、神経回路に大きな可塑的変化をもたらしている。嗅球新生ニューロンは匂い経験依存的に選別を受け、その約半数が神経回路に組み込まれるが、研究代表者はこの選別が食後の睡眠時に促進すること、嗅球の上位中枢である嗅皮質からの中枢性入力が選別を促進することを見いだし、嗅球新生ニューロン選別が「匂いによる末梢性シナプス入力」と「嗅皮質からの中枢性シナプス入力」によって行われているという新しい概念を確立した。本研究では、光遺伝学を用いて嗅球新生ニューロンへの末梢性・中枢性入力を操作し、嗅球新生ニューロンの組み込みと排除のメカニズムを明らかにする。本年度は、 ・マウスの脳室周囲下層にGFP発現レンチウイルスを注入し、嗅球新生ニューロンをGFP標識して形態解析を行う手法を確立した。 ・末梢からの匂い入力によって活動する嗅球投射ニューロン(僧帽細胞)特異的にCre recombinaseを発現するマウス(Pcdh21-Creマウス)とアデノ随伴ウイルス(AAV)を用いて僧帽細胞にチャネルロドプシン(ChR2)を発現させ、光刺激で僧帽細胞を活性化して末梢性匂い入力を模倣する系を確立した。 ・僧帽細胞を光刺激するとChR2陽性の僧帽細胞の樹状突起に形成する新生ニューロンのスパインが若干大きくなる傾向が見られ、さらに僧帽細胞の光刺激と水報酬の連合学習を行うとスパインが著しく大きく発達することが判明した。連合学習によって嗅皮質からの中枢性入力が促進したためと考えられた。 ・これを検証するため、嗅皮質ニューロン特異的にCre recombinaseを発現するマウス(Ntsr-Creマウス)をGENSAT社より入手した。このマウスの嗅皮質ニューロンに変異型G蛋白共役受容体を発現させ、リガンド(CNO)投与で嗅皮質活動の活性化、抑制ができることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
・研究目的の達成のためには嗅球新生ニューロンを効率よく標識してスパイン構造など微細構造を観察すること、また遺伝子改変マウス、ウイルスベクター、光・化学遺伝学を組み合わせて、末梢性入力と中枢性入力を個別に、また統合的に操作することが必要である。これまでの研究で、これらの実験手法の確立をほぼ計画通りに進めることができた。 ・また本研究の鍵となる、匂いに基づく報酬との連合学習を行わせると嗅球新生ニューロンのスパイン構造が著しく発達する、という現象を明確にすることができた。
以上の点から、本研究課題は順調に進捗していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
・以上の知見から、「末梢性入力を受けた新生ニューロンのシナプス構造が、中枢性入力によって大きく発達する」というニューロン発達モデルを想定した。これを検証するためPcdh21-CreマウスとNtsr-Creマウスを掛け合わせ、同一個体において末梢性入力刺激と中枢性入力刺激を行える動物系を樹立する。それぞれ単独刺激、あるいは同時刺激により、嗅球新生ニューロンのスパイン構造の発達を検討する。さらに神経活動の時間的調節をより精密に行うため、嗅皮質ニューロンにChR2を発現させて光刺激でその活動を制御し、末梢性入力と中枢性入力それぞれの活性化の時間的パターンや両者のタイミングのずれが新生ニューロンの発達にどのように影響するかを検討する。 ・レンチウイルスによるRNAi発現で新生ニューロンの分子発現を操作し、末梢性・中枢性シナプス入力作用の分子機構を検討する。NMDA受容体や低閾値のT-type Ca channelに対するRNAiを新生ニューロンに発現させ、グルタミン酸性シナプス入力やカルシウムシグナルの役割を検討する。 ・中枢性入力は嗅覚行動・情動応答に対応している可能性がある。匂い行動時の嗅球・嗅皮質の様々な領域の電気活動を記録し、「嗅皮質のどの領域から嗅球のどの領域に中枢性シナプス入力が多く入力するか」を検討する。嗅球には末梢性入力の空間配置「匂い地図」があるが、中枢性入力の空間配置「嗅覚行動・情動地図」と呼べるものが存在するかどうかを解明する。嗅球・嗅皮質で観察されるLFP上の”sharp wave”や、低周波数成分である”beta wave”を観察対象とし、それぞれの同期性やコヒーレンスを検討する。 ・研究代表者が平成28年4月に東京大学から高知大学に転出したため、新たな実験環境のセットアップが必要となり今後研究遂行の遅れが予想されるが、実験目的を明確にして順次セットアップを行い研究を遂行していきたい。
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