研究課題
嗅覚一次中枢の嗅球では成体でも新しいニューロンが神経回路に組み込まれている。嗅球新生ニューロンは匂い経験に基づいて生死の選別を受けるが、申請者はこの選別が嗅球の上位中枢である嗅皮質からの中枢性入力によって促進されることを見いだし、新生ニューロン選別が「匂いによる末梢性シナプス入力」と「嗅皮質からの中枢性シナプス入力」によって行われるという新しい概念を確立した。本研究では、光・薬理遺伝学を用いて嗅球新生ニューロンへの末梢性・中枢性入力を操作し、嗅球新生ニューロンの選別メカニズムを明らかにする。さらに、中枢性入力が上位中枢のどのような神経活動を反映しているかを明らかにする。これまでの解析により、・マウスの脳室周囲下層にGFP発現レンチウイルスを注入し、嗅球新生ニューロンを標識して詳細な形態解析を行う手法を確立した。また、匂い入力で活動する嗅球投射ニューロン(僧帽細胞)特異的にCreを発現するPcdh21-Creマウスとアデノ随伴ウイルス(AAV)を用いて僧帽細胞にチャネルロドプシン(ChR2)を発現させ、光刺激で僧帽細胞を活性化して末梢性匂い入力を模倣する系を確立した。・光刺激を受けたChR2陽性僧帽細胞の樹状突起上に形成する新生ニューロンのスパインが若干大きくなる傾向が見られた。更に光刺激の際に水報酬との連合学習を行うと、新生ニューロンのスパインが著しく大きく発達した。これは連合学習によって嗅皮質からの中枢性入力が促進したためと考えられた。・これを検証するため、嗅皮質の投射ニューロン特異的にCreを発現するNtsr-CreマウスとAAVを用いて嗅皮質投射ニューロンに変異型G蛋白共役受容体を発現させ、リガンド(CNO)投与で嗅皮質ニューロンの活動調節ができることを確認した。・平成28年度に研究代表者が異動したため本研究の実験環境を新たに整備した。
3: やや遅れている
平成28年度に研究代表者が異動したが、新しい研究室ではウイルスの作成や注入実験を行う環境が準備されていなかったため、実験環境の新たな構築や研究計画の申請などによって、遺伝子改変マウスおよびウイルスを用いる本研究を遂行する環境づくりを行った。28年度の多くの期間をこれに費やしたため当初の計画より進捗はやや遅れたが、29年度に研究計画を遂行できる状況を整えることができた。
以上これまでに得られた知見を基に、今後は以下の解析を進める。・「末梢性入力を受けた新生ニューロンのシナプスが中枢性入力によって大きく発達する」というシナプス入力の統合によるニューロン発達モデルを検証するため、上記のPcdh21-CreマウスとNtsr-Creマウスを掛け合わせ、同一個体において光刺激による末梢性入力刺激とリガンド(CNO)投与による中枢性入力刺激を行える動物系を樹立する。・この掛け合わせマウスを用いて末梢性入力と中枢性入力を個別に操作し、それぞれ単独刺激の際、あるいは両者の同時刺激の際に、嗅球新生ニューロンのスパイン構造の発達がどのようになるかを検討する。・前述のように、光刺激による末梢性入力刺激の際に水報酬との連合学習を行うと新生ニューロンのスパインが著しく大きく発達する。掛け合わせマウスを用いた連合学習を行う際に、CNO投与によって中枢性入力を抑制する。これによって嗅球新生ニューロンのスパイン構造の発達がどのようになるかを検討する。・中枢性入力が反映する上位中枢の神経活動を理解する上で、嗅球のどの領域に中枢性入力が入力するかは重要な知見となる。上記の中枢性入力操作を行い、嗅球において発現が変化する初期応答遺伝子群(c-fos, arc, pCREBなど)を同定する。さらにこれらの遺伝子群の発現が連合学習を行わせた時に誘導されるかどうかを確認し、連合学習時におこる生理的な中枢性入力が、嗅球のどの領域の、どのニューロンに入力するかを明らかにする。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 謝辞記載あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (6件) (うち招待講演 1件)
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