研究課題/領域番号 |
15H04257
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
久場 博司 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (10362469)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 神経科学 / 生理学 / 聴覚 / 活動電位 |
研究実績の概要 |
神経細胞の軸索起始部(AIS)は活動電位の発生部位であり,神経活動決定の要である.近年,AISの軸索上での空間分布(長さ,位置)は細胞毎に異なり,このことが神経回路の適切な動作に重要なことが分かってきた.本研究では,AISの空間分布が同一神経核内の領域毎に異なることで知られるトリ脳幹の聴覚神経核(大細胞核,NM)において,AISの形成過程を調べることにより,AIS分布の決定原理とその分子基盤を明らかにすることを目指している. NMでは,AISの長さが細胞の応答する音の周波数に応じて異なり,高音領域の細胞ほど短い.本年度は,この周波数領域特異的なAIS分布が形成される過程を明らかにするために,発達期のNM細胞におけるAISの形態と機能を経時的に解析した.まず,蛍光色素の電気穿孔導入によりNM細胞を可視化した状態でNaチャネルの免疫染色によりAIS分布を調べた結果,周波数領域によるAIS分布の違いは,聴覚開始後の胚齢15日以降に出現し,成熟がほぼ完成する孵化直前(胚齢21日)に顕著になることが観察された.実際,急性脳切片標本を用いてNM細胞のNa電流を記録したところ,発達に伴うNa電流の増加は高音領域の細胞ほど小さく,胚齢21日には周波数領域間で有為な差がみられた.さらに,通電に対する活動電位応答においても,胚齢21日では活動電位の閾値の違いがみられ,高音領域の細胞ほど高かった.これらの結果は,NMにおける周波数領域に応じたAIS分布の違いの形成過程には聴覚入力が関わる可能性を示唆する.従って現在は,聴覚入力の関与を明らかにするために,発達期の聴覚入力を種々の操作により除去・減弱させることを行ない,そのAISに対する効果を検討中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(理由)本年度はNM細胞のAISの発達変化の解析を行い,細胞特異的なAISの空間分布がシナプス入力の発達とともに形成されることを明らかにすることができた.また,AISの空間分布を決定する分子機構を解析するための切片培養標本を確立し,この標本のNM細胞にAISが形成されていることを確認することができた.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,聴覚入力の関与を明らかにするために,発達期の聴覚入力を種々の操作により除去・減弱させ,そのAISに対する効果を検討する.また,本年度に確立した切片培養標本において薬理学的手法を用いて,神経活動によるAIS分布調節の分子メカニズムの解析を開始する.
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