NM細胞の周波数域によるAIS分布の違いは,胚齢18日以降から徐々に顕著になる.本年度は,このAIS分布再編過程に対する神経活動の関与について検討を行った.まず,胚齢2日に聴覚原基を除去することで聴神経入力を遮断し,胚齢21日の時点でのAIS分布を調べたところ,AISの分布再編に大きな変化は見られなかった.一方,孵化後に内耳除去による聴覚入力遮断を行った場合には,AISの分布再編は減弱する.このことは,AISの分布再編の神経活動依存性は孵化後に生じる,すなわち時期特異性があることを示唆する.しかしながら,聴覚原基を除去した動物では対側のNM細胞や周囲の神経細胞から興奮性シナプス投射が形成されるため,神経活動が保たれている可能性も考えられる.そこで,さらに発達期のNM細胞へKチャネル(Kir2.1)を強制発現させることで,NM細胞の静止膜電位を過分極させ,神経活動を抑制することを試みた.具体的には,Kir2.1をsynapsinプロモーター下に発現するプラスミドを胚齢2日の動物の神経管へガラス電極により注入し,in ovo電気穿孔法による遺伝子導入を行った.その結果,高周波数領域のNM細胞へのKir2.1遺伝子の発現を確認することはできたものの,胚齢21日の時点でAIS分布に変化はみられなかった.今後も,パッチクランプ法によるKir2.1発現時の膜電位の計測や,より発現効率が高いCMVプロモーターやTet-Off制御下でKir2.1を発現するコンストラクトの効果検証を含めて、研究を継続していく必要があると考えられた.
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