海馬領域の興奮性シナプスで起こるシナプス可塑性の一つである長期抑圧の発現に際してのAMPA型グルタミン酸受容体の動態の解析を行ってきた。平成28年度までは、AMPA受容体のサブユニットの一つであるGluA1にpH依存性蛍光色素であるSEPを融合した分子(GluA1-SEP)を海馬神経細胞に発現させて、ガラス面直上に形成させたシナプス後膜様構造(PSLM)内外で、AMPA受容体動態を全反射顕微鏡を用いて室温でライブイメージングした。その結果、NMDAという薬剤の投与によって長期抑圧を引き起こすと、GluA1-SEPが持続的に減少すること、NMDA投与開始当初にGluA1-SEPのエキソサイトーシス・エンドサイトーシスは一過的に増加するが、その後は両者ともに減弱することがわかった。これらの成果は、長期抑圧がAMPA受容体のエンドサイトーシスの増強によってではなく、エキソサイトーシスの減弱によることを示している。平成29年度の研究では、室温で観察された現象が生体温に近い34度でも認められることを確認した。また、PSLMで観察された現象が通常のシナプスでも起こっていることを斜光照明法により確認した。さらに、GluA1とは異なるAMPA受容体サブユニットであるGluA2にSEPを融合した分子(GluA2-SEP)を用いた実験を行い、GluA2-SEPはGluA1-SEPとは異なり、NMDA投与直後のエンドサイトーシス・エキソサイトーシス増加がほとんど認められないこと、細胞表面上のGluA2-SEP量はGluA1-SEPとは異なり、NMDA投与終了後に回復傾向を示すことが明らかになった。これらの結果は、長期抑圧発現に際して、AMPA受容体はサブタイプ特異的に制御されることを示している。こうした成果をまとめて論文投稿した。現在、改定版が査読中の状況である。
|