研究実績の概要 |
本年度の研究は、主として以下の2点について結果を得た。 (1)プルキンエ細胞出力シナプス伝達メカニズムの検討:Kawaguchi and Sakaba (2015)では、プルキンエ細胞-深部小脳核神経細胞間のシナプスにおいて、プルキンエ細胞体で発生後軸索を安定して伝導していた活動電位がシナプス前終末付近で周波数依存性に減衰し、これが短期シナプス抑圧をおこすことがわかった。本年度は、プルキンエ細胞どうしのシナプスの伝達メカニズムの検討を行った。連発刺激で当該シナプスは短期シナプス促通をおこすが、これは古典的な残存Ca仮説では説明できず、シナプス前終末にあるCaチャネルが促通しCa流入量が増大することで伝達物質放出量の促通が惹起されることがわかった(Diaz et al., 2015)。プルキンエ細胞出力シナプスの標的細胞依存性シナプス可塑性は、軸索および終末の電気的特性が重要な役割を担うことが明らかになった。 (2)シナプス小胞動態の可視化:聴覚伝導路にあるcalyx of Heldシナプス前終末を急性単離し、ガラス面に接着させることで全反射蛍光顕微鏡を適用させることが可能になった。シナプス小胞をFM1-43で標識することで、単一シナプス小胞の動態を観察した。この方法でシナプス小胞の形質膜接着から開口放出までを詳細に調べた。電気生理学的に想定されていたように小胞の形質膜伝達物質放出部位への動員ではなく、すでに接着している小胞の伝達物質放出部位内での分子プライミングが律速になるとの結果を得た(Midorikawa and Sakaba, 2015)。この方法を用いて、今後伝達物質放出の素過程を抽出していくことが重要な課題である。
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