研究課題
本年度は,他者の報酬に関する情報が,自己の報酬の価値評価に対してどのような認知行動学的影響を及ぼすか,またその際に,大脳前頭葉皮質の神経細胞が,自己と他者の報酬情報をどのように処理・表現するかについて検討を行った。まず,対面する2頭の被験動物(マカクザル)に対し,自他の枠組みにおいて,古典的条件づけ(classical conditioning)を行った。この「社会的古典的条件づけ」では,複数の条件図形刺激それぞれに対して自己と他者の異なる報酬確率を関連づけた。各条件刺激に対する動物の報酬価値評価を,リッキング運動を指標として解析した。その結果,リッキング運動の強さは,自己の報酬確率とは正の相関を,他者の報酬確率とは負の相関を示すことを見出した。このことから,他者が報酬を得る機会が増加すると,自己報酬の主観的価値が低下することが示唆された。次に,前頭葉内側部の皮質領域から単一神経細胞活動を記録した。いくつか異なるタイプのタスク関連細胞が見出されたが,その多くは自己の報酬情報(報酬確率)のみを表現する細胞と,他者の報酬情報のみを表現する細胞であった。自他両者の報酬情報を表現する細胞や,主観的価値を表現する細胞は,相対的に少なかった。以上の結果から,自己と他者の報酬情報は,前頭葉内側皮質の神経細胞によって区別されて処理・表現されることが明らかになった。これらの成果をまとめ,国内外の学会やシンポジウム等で発表した。今後は,自己と他者の報酬情報がどのように統合され,主観的価値に影響を及ぼすのかを明らかにしていく。
2: おおむね順調に進展している
当初の研究実施計画どおりに行動パラダイムを開発し、行動学的ならびに電気生理学的実験を実施した。そして,他者報酬情報の自己報酬価値評価に対する認知行動学的影響と,前頭葉内側皮質における自他の報酬情報の表現様式を明らかにし,その成果について対外発表を行った。以上から,当初の計画通りに研究は進捗していると判断した。
今年度の研究により,自己の報酬情報と他者の報酬情報が,大脳皮質のニューロンレベルにおいて区別されて処理されることが明らかになった。今後は,両者の情報がどこでどのように統合されるのかを明らかにするため,皮質下脳領域の神経情報解読を行っていく。また,新たに得られる成果を,国内外の学会や学術誌上において発表していく。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 5件、 招待講演 6件)
Neuron
巻: 89 ページ: 300-307
10.1016/j.neuron.2015.12.025
精神医学
巻: 58 ページ: 7-13
脳科学辞典
巻: - ページ: -
10.14931/bsd.2404
Journal of Neurophysiology
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10.1152/jn.00223.2015
10.14931/bsd.2087