研究課題
平成28年度は1965-77年に剖検された過去の紀伊ALS6例と、2013年に剖検された現在の紀伊ALS例について、さらに詳細な神経病理学的解析を行い、過去と現在の症例の所見を比較検討した。タウ免疫染色では、過去、現在の症例ともに神経原線維変化が運動野、前頭葉、側頭葉、扁桃体、海馬で多数認められ、脳幹、脊髄にまで分布していたが、後頭葉、基底核では比較的少数であった。大脳皮質では浅層優位に出現していた。また、グアム島ALSに特徴的とされるgranular hazy inclusionsが全例に見られた。TDP-43陽性神経細胞質内封入体は全例の脊髄にみられ、大脳では基底核よりも海馬に多数認められた。TDP-43病変は、Mackenzie分類Type Bと一致した。以上から、過去と現在の紀伊ALSの基本的な神経病理所見は40年以上を経ても類似しており、共通の病因の存在が示唆された。さらにこれら7例において、SOD1、FUS、C9RANT、ubiquilin-2染色を行ったところ、有意な構造物は認められず、いずれの症例もSOD、FUS、C9ORF72、UBQLN2の変異による遺伝性ALSではないと考えられた。また、分担研究者の廣西らによる紀南地域での診療活動により、3例の新規ALS患者の剖検を得た。一方、われわれはオプチニューリン変異を伴うALSの剖検例において、polyubiquitin familyのうちlinear ubiquitinが神経細胞質内封入体の形成に関与していることを見出し、ALSにおける神経変性には神経炎症が深くかかわっていることを報告した。遺伝子解析については、研究協力者である広島大学の川上教授らにより紀南地域出身者を含む55例のALS患者について網羅的に遺伝子解析が実施されたが、既知の遺伝子異常は見出されず、未知の原因遺伝子が存在する可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
平成28年度に予定した研究計画のうち、1960-1970年代の紀伊ALS/PDCの剖検組織における異常タンパクの蓄積部位の詳細な検討と、2013年に剖検した紀伊ALS症例における異常タンパク蓄積部位との比較検討は終了した。また、紀南地域における新規患者の発掘も順調で、3例の新規ALS患者の剖検も得た。既知のALS原因遺伝子の網羅的解析も終了し、紀伊ALSには既知の遺伝子変異が認められないことが明らかとなった。紀伊ALS患者のiPS細胞は現在のところ得られていないが、その他の計画は順調に進展しており、得られた結果の一部は2017年9月に京都で開催予定の国際神経学会にて発表予定である。以上から、達成率はおおむね90%程度と考えており、ほぼ計画通りである。
研究計画は現在のところ順調に進展しており、特に問題点や変更の必要性はない。今後も研究計画に沿って研究を遂行していく予定である。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (14件) 備考 (1件)
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