平成27年度は、マウスES細胞の系において、我々が従来開発してきた局所跳躍型トランスポゾン技術と、近年急速に発展しつつあるCRISPR/Casシステムを組み合わせた大規模なゲノム欠失導入技術を考案し、その最適条件を見出す目的で実験を開始した。ところが、この実験を進める過程で、本研究の立案時に想定した欠失両端の再結合効率を高めるガイドRNA配列の設計に加えて、当初計画にはなかった全く別の視点からの新しい技術的工夫を追加することにより、ゲノムへの人為的な構造変異の導入効率と正確性をさらに向上させることが可能と期待される新しいゲノム改変システムの着想を得るに至った。そこで、年度の途中ではあったが、我々は実験計画の一部を変更し、まずは新システムに適合するマウスES細胞クローンの作製と単離・選別を開始した。次に、本プロジェクトのいわゆる原理証明実験の一環として、マウスES細胞の2番染色体上の特定ゲノム領域に対して、約400kbのサイズの欠失変異を導入する実験を行った。その結果、ひとまず実験前に意図した通りの欠失変異株を得ることができた。しかしながら、今回の新システムの効果を判定するに際しては、導入効率に有意差を得るには至らなかった。これは新システムの効果が小さいというのではなく、今回の実験で設定した欠失変異のサイズが、本研究が狙いとするゲノム構造変異のレンジとしては短か過ぎて、効率向上の効果を見るには実験的難度が不足していたと考えられた。そこで、従来技術では効率的な変異導入が困難と思われる、よりレンジの広いゲノム構造変異の導入を新たな目標として設定し、その目標を達成するためのベクターを導入したマウスES細胞の作製を開始した。
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