研究課題
多因子形質の遺伝的基盤を解明する目的で、遺伝的に多様なマウス集団「ヘテロジニアスストック(以下HS)」が注目されている。このHSの特徴は、集団内のマウスが持つ遺伝子は8つの親系統のいずれかに由来すること、多世代にわたる交配でゲノム内組換えが蓄積し高い遺伝的精度と多様性を得られることである。しかし、既存のHSは実験用系統のみから作出されたことから多様性が限定され、またHSを使った多因子形質の遺伝解析の方法論は未開発のままであった。われわれは野生系統の示す過剰な不安様行動と遺伝的多様性に着目し、8つの野生系統を遺伝的に混合した野生由来ヘテロジニアスストック(WHS)の作製を開始した。本研究では、WHSを用いて多因子形質の遺伝的基盤解明の新たな方法確立を目指す。
2: おおむね順調に進展している
これまでに、不安に関連した従順性について、系統間で顕著な違いがあることを明らかにした。家畜化には人に対する恐怖や不安の低下が不可欠であるため、従順性の進んだ実験動物は不安低下の格好のモデルとなることが期待されている。我々は、マウスをフィールド内に入れ、そこに挿入した人の手を恐れる反応を測定することでマウスの従順性を調べる方法(従順性テスト)を考案した。野生系統を用いて従順性テストを行った結果、人に対する恐怖反応は実験用系統で低く野生系統で高い傾向があるが、その野生系統の中でも顕著な系統差があることが分かった。さらに、8つの野生系統をもとに交配することで、すべての系統のゲノムを混ぜ合わせた野生由来ヘテロジニアスストック(WHS)の作製を開始した。そのWHSについて、上述の従順性テストの表現型を指標にした選択交配を行った。毎世代形質の高い個体を選択し、近交化を避けつつ次世代の交配を行った。これにより、世代ごとに表現型が徐々に変化し、最終的にはコントロール群に対して有意に表現型の異なる選択群ができた。今後は、ゲノム全体を対象にしたSNP解析を行うことで、従順性に関連した遺伝子座の同定を進める。
上述のような選択交配により、世代を重ねるごとにマウスの従順性が変化した集団ができあがってきた。このように、選択が十分に進んだ時点で、選択系と非選択系の集団の個体から抽出したゲノムDNAを用いて、144KマウスGigaMUGAアレイによるゲノムワイドなSNPs解析を行う。このWHSに関して、8つの親系統のゲノムSNPsをMegaMUGA arrayを用いて網羅的に解析した結果、ゲノム全体で多数のSNPsの解析が可能であることがすでに分かっている。このゲノムワイドなSNPデータを用いて、選択系と非選択系の比較を行うことで、マウスの従順性に関連する遺伝子座の同定を進める。同時に、発現解析を行うことで、その選択した行動に影響を与えるあらゆる遺伝子の同定と従順性に関わる遺伝子ネットワークを解明する。
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