新たに開発した従順性テストを用いて解析して、それを用いてマウスの解析を進めてきた。野生由来系統8種類を交配して遺伝的ヘテロ接合を保つように近交化を避けつつ交配して作出したWHSを用いて、能動的従順性の高い個体を交配に用いることで選択交配を進めた。これまでに選択交配をさらに進めて、16~17世代目において能動的従順性が12世代目よりもさらに顕著に選択群と非選択群で異なることを確認した。 そこで、能動的従順性に関わる遺伝子を明らかにする目的で脳における遺伝子の発現解析を行った。選択群10個体と非選択群10個体について、脳の海馬を採取してRNAを抽出した後にHiSeq 2500を用いて100bpのpaired-endを次世代シークエンサにより解読することで、発現量の比較を行った。発現量の解析にはC57BL/6マウスのゲノム配列に配列断片を張り付けることにより解析した。その結果、Welch’s t-testでFDR (q < 0.10 ) 、さらに選択群と非選択群で1.2倍以上の違いを示すものを有意水準としたところ、ゲノム全体で9つの遺伝子が有意に発現量が異なることが明らかになった。そのうち、一つの遺伝子は前年度に選択群と非選択群の集団のゲノムを用いたselection mappingおよび11番染色体の関連解析により明らかになった2つの遺伝子座に存在している遺伝子であることが明らかになった。 このように、野生由来の遺伝的にヘテロな集団から、選択交配により能動的従順性の顕著に高いマウス集団を作製することに成功した。さらに遺伝的解析により能動的従順性に関わる遺伝子座を明らかにした。また発現解析を行うことで、脳の機能として能動的従順性に関わる有力な候補遺伝子が明らかになっており、今後の能動的従順性に関わる分子遺伝学的な基盤の解明に向けた大きな進歩が得られた。
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