研究課題
癌の進展・転移・再発に寄与する癌幹細胞を支持する微小環境(癌幹細胞ニッチ)は治療標的として重要であるが、分子基盤は未解明である。本研究は癌幹細胞ニッチの機能をもつ合成ポリマーの探索という斬新な方法でその解決にあたることを目的に実施された。研究代表者が海外共同研究者と開発を進めた多種類の合成ポリマーアレイスライドと蛍光イメージングによる癌幹細胞自己複製ニッチ評価系をもとに探索した癌幹細胞ニッチポリマーに結合する蛋白質として準備研究で得たニッチ分子候補を軸にした取組により、本年度末までに以下の実績を上げた。準備研究でラットC6グリオーマの癌幹細胞を支持するニッチポリマーに結合する癌幹細胞ニッチ分子候補として鉄運搬分子transferrin (Tf)を同定し、グリオーマ患者の癌部遺伝子発現データベース解析で、Tf受容体の発現と悪性度との間に正相関を見出した。グリオーマ癌幹細胞は鉄代謝が関わるニッチを自ら構築して利用する生存戦略をとるという仮説を立て、C6グリオーマ幹細胞のマウス脳内移植系を用いて、グリオーマ組織中におけるCD204陽性の腫瘍随伴マクロファージ(TAM)に3価鉄(貯蔵鉄)の存在を見出した。これにより癌の進展における鉄貯蔵TAMの関与が明らかとなった。C6グリオーマ癌幹細胞と非癌幹細胞についてcDNAマイクロアレイ解析を行い、単球動員やマクロファージ分化を担うCCL2やGM-CSFなどの遺伝子発現が、癌幹細胞において亢進していたことから、CCL2受容体に対する阻害剤やGM-CSFの中和抗体を用いた解析を行い、TAMの腫瘍内動員・分化に癌幹細胞が関与していることを明らかにした。さらに、癌幹細胞によって誘導されたTAMはCD11c lowとCD11c highの2種類に大別され、後者のみが腫瘍を進展させる能力を有していることも見出した。
2: おおむね順調に進展している
癌幹細胞ニッチについては未知の点が多い中、斬新なアプローチすなわち、多種類の合成ポリマーアレイスライドと蛍光イメージングによる癌幹細胞自己複製ニッチ評価系をもとに探索した癌幹細胞ニッチポリマーにより、いくつかの新しい知見を得ることができた。また、それらの知見については、次年度以降にさらに展開研究を進められる目処が立ったことなどから、進捗については概ね順調と考える。
平成27年度に、癌幹細胞は腫瘍内に鉄代謝が関わるニッチを自ら構築して利用する生存戦略をとるという仮説で研究を進めた。今後は、5-aminolevulin酸から合成されるprotoporphyrin IX (PpIX)は鉄と結合してヘムとなることを考慮した展開を図る。PpIXの腫瘍選択的蓄積性から脳腫瘍の術中診断と光線力学療法薬に臨床応用されているため、C6グリオーマ幹細胞の移植モデルで腫瘍組織中のグリオーマ幹細胞の検出効率の鉄代謝制御による変化を解析することで、臨床応用に展開可能な知見を得ることを念頭において平成28年度以降の研究を推進する。また、平成27年度には多種類の合成ポリマーアレイスライドと蛍光イメージングによる癌幹細胞自己複製ニッチ評価系をもとにした癌幹細胞ニッチポリマーの探索が、グリオーマ癌幹細胞ニッチ研究において一定の成果をもたらしたことから、今後は、研究協力者が確立した可視化膵臓癌幹細胞を用い、グリオーマ同様予後の極めて悪い膵臓癌について、合成ポリマーアレイスライドを用いた膵臓癌幹細胞ニッチポリマーの探索を推進する。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (4件)
Stem Cells
巻: 34 ページ: 1151-1162
10.1002/stem.2299
Genes to Cells
巻: 21 ページ: 241-251
10.1111/gtc.12333
Human Cell
巻: 29 ページ: 10-21
10.1007/s13577-015-0121-7
Oncogene
巻: in press ページ: in press
10.1038/onc.2015.461
http://www.tmd.ac.jp/mri/scr/subjects/index.html
http://www.tmd.ac.jp/mri/scr/english/subjects/index.html
http://reins.tmd.ac.jp/html/100007289_ja.html
http://reins.tmd.ac.jp/html/100007289_en.html