研究課題/領域番号 |
15H04292
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
田賀 哲也 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 教授 (40192629)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 癌 / 癌幹細胞 / ニッチ / グリオーマ / ヘム / 鉄 / プロトポルフィリンIX / ミトコンドリア |
研究実績の概要 |
癌の病態解明と根治において癌幹細胞の特性解明と癌幹細胞を支持する微小環境(ニッチ)の分子基盤解明は重要である。海外共同研究者と開発した合成ポリマー群のアレイスライドと蛍光イメージングによる癌幹細胞自己複製ニッチ評価系でこれまでに同定したグリオーマ癌幹細胞ニッチ擬態ポリマーに結合する分子を軸とする解析等で本年度は主に以下の実績を得た。 研究代表者らは以前グリオーマ細胞株C6においてHoechst33342色素排出性細胞集団(side population, SP)が癌幹細胞画分であることを報告した。合成ポリマーアレイを用いた研究から癌幹細胞ニッチ受容分子として鉄取り込みを担うトランスフェリン受容体が同定された。そこで鉄が関与するヘム代謝経路に着目した。ヘム前駆体のプロトポルフィリンIX (PpIX)は5-アミノレブリン酸(5-ALA)から代謝され、鉄と結合してヘムに変換される。光感受性物質であるPpIXは腫瘍細胞特異的に蓄積することから、5-ALAはグリオーマ術中診断薬として頻用されている。C6細胞を5-ALA処理後にPpIXの蛍光強度を測定したところSP細胞(癌幹細胞)はPpIXの低蓄積性を示し、グリオーマ中の癌幹細胞は検出が困難であることを示唆した。これは現行の術中診断法でグリオーマの癌幹細胞が検出・摘出できない可能性を示しており、臨床診断学的に大きな示唆を与える成果である。さらに鉄キレート剤デフェロキサミン処理でSP細胞におけるPpIXの蓄積レベルが劇的に改善したことから、癌幹細胞を標的とした新たな診断法の開発に道を拓くものである。 癌幹細胞の代謝特性解明の一環としてC6細胞を細胞内ミトコンドリア量と活性酸素量の指標となる蛍光プローブで染色したところSP細胞(癌幹細胞)が低い蛍光強度を示した。この低い蛍光強度はSP細胞に発現するABC transporterによるプローブ排出が一因であることがわかり、蛍光プローブを用いた癌幹細胞の代謝解析には注意を要することが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
癌幹細胞ニッチの理解は癌の根絶につながると期待されながらも未知の点が多々ある状況であったが、本研究による斬新なアプローチすなわち、多種類の合成ポリマーアレイスライドと蛍光イメージングによる癌幹細胞自己複製ニッチ評価系をもとに同定した癌幹細胞ニッチポリマーに結合する分子を起点に新たな診断・治療法に繋がる研究成果を得ることができたことなどから、進捗については概ね順調と考える。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の実績を踏まえて次のような研究推進方策を立てている。 (1) グリオーマ幹細胞ニッチ擬態ポリマー結合分子から探る癌幹細胞生存戦略の解析:平成28年度研究実績の概要に記載したように、C6グリオーマ癌幹細胞ニッチ擬態ポリマーに結合する分子の同定を通じて、癌幹細胞は腫瘍内において鉄代謝が関わるニッチ環境による生存戦略をとると考えられる。これに関して、癌幹細胞では5-アミノレブリン酸(5-ALA)からプロトポルフィリンIX (PpIX)が合成され鉄と結合してヘムとなる経路において、PpIXの蓄積が減弱されることを発見したので、癌幹細胞における5-ALA/PpIX/ヘム経路に関わる遺伝子群の発現異常やエピゲノム異常を探索する。またこの発見に汎用性があるかどうかをヒトグリオーマ細胞株やマウスのグリオーマモデル細胞を用いて検討する。 (2) 合成ポリマーアレイを用いた膵臓癌幹細胞ニッチ擬態ポリマーの同定:これまでに確立した合成ポリマー群のアレイスライドと蛍光イメージングによる癌幹細胞ニッチ探索系を適用して平成28年度に可視化膵臓癌幹細胞(研究協力者が樹立)のニッチ探索を実施したが、良好な膵臓癌幹細胞ニッチ擬態ポリマーを得られなかったため、海外研究協力者と共同でポリマーの再合成による探索を進める。その際、現状の改善を図るため細胞の生存性あるいは基材滞留性にバイアスをかけるコンポーネントを添加したポリマーアレイを用いることにする。 (3) 癌幹細胞の腫瘍随伴マクロファージ(TAM)への作用と癌進展における役割に関する解析:TAMは癌幹細胞ニッチを考察する上で重要である。研究代表者らはC6グリオーマ癌幹細胞で単球動員やマクロファージ分化に関わる因子群の発現が亢進し、TAMが癌進展に関与していることを見出したことから、マウス脳内グリオーマ幹細胞移植モデルを用いて、これらの因子あるいは受容体の阻害による癌進展抑制を検討する。
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