(1) グリオーマ幹細胞生存戦略の解析: これまでにラットC6グリオーマ癌幹細胞のニッチを擬態するポリマーに結合する分子としてtransferrinを見出し、鉄代謝の関わるニッチを自ら構築する生存戦略を示唆した。前年度、C6グリオーマ幹細胞では5-aminolevulinic acid (5-ALA)からprotoporphyrin IX (PpIX)が合成され鉄と結合してhemeとなる経路でPpIXの蓄積が少ないことを見出した。このラットグリオーマの研究成果を踏まえ今年度は熊本大学から供与された2株のヒトグリオーマ細胞株を用いてヒトグリオーマに焦点を当てた。これら2株を、グリオーマ幹細胞亜集団を維持する増殖因子を添加したスフェア形成系または接着系で培養した後、5-ALAを添加してPpIX合成を促した。Flow cytometryによる細胞内PpIX定量の結果、2株いずれもブロードなPpIX蓄積パターンを示した。この結果に基づき今後PpIX低蓄積性およびPpIX高蓄積性の亜集団についてマウス脳内移植モデルにより腫瘍形成能の検討が可能となった。 (2) 合成ポリマーアレイを用いた膵臓癌幹細胞ニッチ擬態ポリマーの同定: これまでに確立した合成ポリマーアレイスライドと蛍光解析による癌幹細胞ニッチ探索系を適用して昨年度、可視化膵臓癌幹細胞(研究協力者が樹立)のニッチ探索を実施したが、良好な膵臓癌幹細胞ニッチ擬態ポリマーを得られなかったため、今年度、海外研究協力者と共同でポリマーの再合成による探索を進めた。蛍光による定量的解析で、膵臓癌幹細胞の自己複製ニッチ擬態ポリマーと膵臓癌幹細胞トラップポリマーの探索を行った。その結果、膵臓癌幹細胞をトラップする候補ポリマーを特定することができた。候補ポリマーをスケールアップして膵臓癌幹細胞トラップ能を検証した結果、有意なトラップ能は確認できなかった。海外研究協力者と共同で今後さらに多様なペプチド含有ポリマーを合成してポリマーアレイによる探索を進める。
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