研究課題
60人の日本人Cushing病患者から外科切除した脳下垂体腫瘍におけるUSP8遺伝子の14-3-3タンパク質結合モチーフRSYSSPコード領域の変異を調べた結果、21人(35%)の腫瘍においてヘテロ体細胞変異を見出した。この結果は、USP8変異によるCushing病の発症機構の詳細な解析が、わが国におけるCushing病(厚生労働省の特定疾患に指定)の治療法を確立する上で非常に重要であることを示すものである。Cushing病で見出されるUSP8変異体は14-3-3タンパク質結合能を喪失した結果、その結合モチーフのN末端側で分子切断されて活性化される。これまでに、この分子切断によって生じるUSP8のN末端側90-kDa断片とC末端側40-kDa断片を特異的に認識する2種類の抗体の作製に成功した。今後これらの抗体は、Cushing病の脳下垂体腫瘍におけるUSP8変異の有無を簡便に診断する試薬として利用できることが期待される。また、脳下垂体のACTH産生細胞で特異的に発現するプロオピオメラノコルチン遺伝子のプロモーターの下流にCushing病で見出されるUSP8変異体のcDNAをつないだDNAコンストラクトを導入したトランスジェニック・マウスを作製し、尾から抽出した染色体DNAを鋳型としたPCRにより、トランスジーンをもつマウスの系統が複数得られたことを確認した。今後、このトランスジェニック・マウスをこれまで存在しなかったCushing病の動物モデルとして利用できることが期待される。
2: おおむね順調に進展している
日本人のCushing病患者においても高頻度でUSP8変異が見られたことは、わが国におけるCushing病の治療法を検討する上で非常に大きな進捗である。また、Cushing病で見出されたUSP8変異体は14-3-3タンパク質結合モチーフRSYSSPのN末端側で分子切断を受けて活性化されるため、この分子切断で生じるUSP8のN末端側90-kDa断片とC末端側40-kDa断片を特異的に認識する抗体の作製に成功したことは、今後Cushing病におけるUSP8のはたらきを調べる上で非常に有意義なツールになると予想され、これも大きな進捗である。さらに、Cushing病患者で見出されたUSP8変異体を脳下垂体のACTH産生細胞で特異的に発現するトランスジーンをもつトランスジェニック・マウスの系統を複数得ることに成功した。脳下垂体におけるUSP8変異体タンパク質の発現の確認はこれからであるが、ヒトCushing病の病態の動物モデルの構築に向け、研究は順調に進捗している。
Cushing病のUSP8変異体の分子切断によって生じるN末端側90-kDa断片とC末端側40-kDa断片を特異的に認識する2種類の抗体を用いて、Cushing病患者から摘出した脳下垂体腫瘍のライセートのイムノブロッティングと免疫組織染色を行い、Cushing病における簡便なUSP8変異の有無の診断法を確立する。また、同様に正常マウスの各組織のライセートのイムノブロッティングと免疫組織染色を行い、生理的な条件において分子切断によるUSP8活性化が起きる組織・細胞を同定する。また、Cushing病患者で見出されたUSP8変異体を発現するトランスジェニック・マウスを作製することにより、これまで存在しなかったCushing病の動物モデルを樹立し解析する。今年度、USP8変異体を脳下垂体のACTH産生細胞で特異的に発現するトランスジェニック・マウスの系統を複数得ることに成功した。このトランスジェニック・マウスを用い、まず脳下垂体におけるUSP8変異体タンパク質の発現、および脳下垂体における腫瘍形成を調べる。そして、発現の検出された系統において血中のACTHやコルチゾールの濃度上昇、および肥満・糖尿病などのCushing病症状が見られるかどうか調べ、このUSP8変異体トランスジェニック・マウスがヒトCushing病の病態モデルとなりうる可能性を検討する。
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すべて 国際共同研究 (6件) 雑誌論文 (12件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (2件)
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