研究課題
Srcは最も初期に同定されたがん原遺伝子産物であり、様々なヒト腫瘍においてその制御系の破綻により機能亢進し、腫瘍進展、特に浸潤・転移を促進するとされているが、その制御破綻の分子機序など不明な点が未だに多く残されている。本課題では、腫瘍化に伴うSrcの制御破綻よる機能亢進の分子機序、および腫瘍進展における役割を明らかにすることを目的とした研究を進め、本年度までに以下の成果を得た。1)ヒト乳腺上皮細胞MCF10AをTGF-βで上皮間葉転換(EMT)を誘導することにより、Src遺伝子の転写レベルでの発現が誘導されることを見出し、その際に活性化するプロモーターおよびエンハンサー領域をChip-Seqにより同定することに成功した。現在、TGF-βの下流で機能する転写因子の同定を進めている。2)上皮がん細胞における活性化Srcの新たな基質としてPARD3を同定し、Tight junctionの制御におけるSrcの新たな機能を見出した。現在PARD3のリン酸化の意義の解析を進めている。3)活性化したSrcがエンドソーム系によって後期エンドソームおよびリソソームにまで輸送されて、分解消化、およびエクソソームとして細胞外に排出されることを見出し、活性化Srcの新たな制御機構の存在を示した。4)活性化Srcが細胞膜上(特にラフト)で結合する因子として膜タンパク質CDCP1を同定した。三次元培養系におる観察から、CDCP1の発現上昇によりSrcが顕著に活性化し、上皮間葉変換様の細胞形態変化が誘導されて細胞外基質への浸潤が促進されることが見出された。さらに、CDCP1-Srcの下流でSTAT3経路が機能することを特定し、その経路を介して、Srcが腫瘍進展、特に上皮がん組織の集団的浸潤において重要な役割を担うことが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
Srcの機能亢進の分子機序に関する新たな現象(EMTに伴う転写活性化、分解系の同定、CDCP1による活性化など)を見出すことに成功し、当初の目的達成に大きく貢献する成果が出始めている。また、それらの成果を論文にまとめる段階に近づいていることから、研究は概ね順調に進んでいると判断している。
いずれの小課題についても研究の流れはほぼ確立してきているので、不足している実験に集中して研究を進め、成果のとりまとめを加速する。また、学会や研究会での発表をより積極的に進め、外部からの批判に晒される機会を増やすことも考えている。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (4件)
Oncogenesis
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