研究課題
(1)ニッチ因子としての外来性PAI-1によるがん幹細胞制御機構の解明PAI-1阻害剤の投与によって誘導される複数のサイトカインを同定した。CMLの治療実験系において、各サイトカインの阻害抗体を投与したところ、PAI-1阻害剤の抗腫瘍効果を5割程度キャンセルする抗体はあるものの、完全阻害は達成できないことから、外来性PAI-1による制御因子誘導効果がCML治療において有効に働く可能性は低いことが予想された。(2)がん幹細胞自身に発現する内在性PAI-1による治療抵抗性獲得機構の解明TGFbによって造血幹細胞やCML細胞に内在性PAI-1発現が誘導され、治療抵抗性を獲得することを明らかにした。内在性PAI-1によって制御されている因子を探索したところ、セリンプロテアーゼであるFurinの活性を抑制していることを突き止めた。Furinは様々なタンパク質の前駆体を成熟型に変換する酵素である。細胞が発現する内在性PAI-1がFurinを抑制することにより、細胞遊走に重要なMT1-MMPの成熟化が抑制されることが明らかとなった。すなわち、ニッチが産生するTGFbがCMLの内在性PAI-1を誘導し、そのPAI-1によってMT1-MMP発現が抑制されるのでCML細胞はニッチに留まるようになる。このことが抗がん剤に対して抵抗性を示す原因であることが示唆される。PAI-1阻害剤は、この内在性PAI-1に作用し、Frurinの活性化とMT1-MMP発現の上昇を促すことでCML細胞のニッチからの離脱を誘導した。したがって、CML細胞のニッチからの離脱誘導による抗がん剤高感受性化がPAI-1阻害剤の作用機序であることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
白血病の治療実験系において、抗がん剤を投与する際にPAI-1阻害剤を併用すると、著明な抗腫瘍効果を発揮する。2015年度研究によって、その作用機序を明確にすることができた。当初予想以上に興味深い制御機構によるものであったため、白血病研究のみならず幹細胞研究分野に広く適用できる知見を得ることができた。
白血病幹細胞の誘導効率が低いことが課題となっている。細胞株を利用してPAI-1阻害剤の作用機序を明確にすることができたが、白血病幹細胞を対象とした解析が必要である。現在白血病を安定的に発症するマウスを導入して解析を進めており、2016年度中にPAI-1阻害剤が白血病幹細胞を標的としていることを明らかにする予定である。
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Int Immune
巻: 27 ページ: 567-577
10.1093/intimm/dxv031