研究課題/領域番号 |
15H04302
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研究機関 | 国立研究開発法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
牛島 俊和 国立研究開発法人国立がん研究センター, 研究所, 分野長 (90232818)
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研究分担者 |
前田 将宏 国立研究開発法人国立がん研究センター, 研究所, 研究員 (30738703)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | エピジェネティクス |
研究実績の概要 |
DNAメチル化異常は慢性炎症等による発がんに極めて重要な役割を果たす。一方で、慢性炎症によるDNAメチル化異常誘発機構の詳細は分かっていない。本研究では、これまでに関与の可能性を示してきたIL-1β、TNF-α及び一酸化窒素などの炎症関連因子、及び、上皮細胞内でのNF-κBシグナルの活性化とTET3の発現低下に着目し、DNAメチル化異常誘発の分子機構を解明する。 2年目の本年度は、まず、DNAメチル化異常誘発の最終エフェクターであるDNAメチル基転移酵素DNMT1、3A、及び3Bについて、一酸化窒素持続処理がDNAメチル化活性に影響を与えるかどうかを調べた。胃がん細胞株HSC41及びTMK1から抽出した核タンパク質を、一酸化窒素ドナーであるNOC18またはSNAP(S-Nitroso-N-acetyl-DL-penicillamine)により処理したところ、NOC18処理により3-5倍程度、SNAP処理により1.5倍程度のDNAメチル化活性の上昇が認められた。 次に、慢性炎症によるTet遺伝子発現低下の分子メカニズムを解明するために、ヘリコバクター感染により発現が上昇するマイクロRNAを探索した結果、36個のマイクロRNAの発現上昇が認められた。これらのマイクロRNAについて、Tet遺伝子を標的とするか否かをデータベース検索した結果、12個のマイクロRNA(miR-16、miR-20a、miR-20b、miR-26a、miR-26b、miR-29c、miR-106b、miR-135b、miR-140、miR-142、miR-203及びmiR-222)が同定された。これらのマイクロRNAのうち、miR-26b及びmiR-29cについて、TET遺伝子の抑制をin vitroで確認した結果、miR-26bがTET2及び3を、miR-29cがTET1、2及び3を強く抑制することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
DNAメチル化異常誘発時のエピジェネティック制御異常の解明に関して、一酸化窒素持続処理によりDNAメチル化活性が上昇することを明らかにした。また、炎症シグナルとエピジェネティック制御異常のリンクの解明に関して、慢性炎症によるTet遺伝子発現低下には、特定のマイクロRNAの発現上昇が関与することを解明した。これらの理由から、おおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度以降は、以下の通り研究を推進する予定である。 (1)DNAメチル化異常誘発時のエピジェネティック制御異常の解明:DNMT1、DNMT3A、またはDNMT3Bを高発現させた細胞株を一酸化窒素により持続処理、核タンパク質のDNAメチル化活性を測定する。また、各DNAメチル基転移酵素の組み換えタンパク質を用いて、一酸化窒素によるDNAメチル化活性の上昇が酵素への直接作用によるものかも明らかにする。さらに、平成28年度に解明したTET遺伝子群を抑制するマイクロRNAを高発現した細胞株を一酸化窒素により持続処理し、散在性及び高密度のDNAメチル化異常誘発を観察する。これによりDNAメチル化異常誘発におけるTET発現抑制とDNMT活性上昇が同時に存在することの重要性を明らかにする。 (2)炎症シグナルとエピジェネティック制御異常のリンクの解明:平成28年度に解明したマイクロRNAの発現上昇に関して、NF-κBの活性化(IL-1β及びTNF-αによる)が関与するかどうかを、プロモーターのモチーフ解析、レポーターアッセイ等により明らかにする。一方、DNMTの活性上昇には一酸化窒素(NOS発現上昇により産生)が関与する。これらにより、IL-1β、TNF-α、NOSの発現が上昇するような「悪い」慢性炎症とエピジェネティック制御異常のリンクが解明される。
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