研究課題
NEK9は、がん抑制的miR-22が、p53欠失・変異がん細胞特異的に抑制する標的遺伝子として同定した。NEK9は、p53変異がん細胞の細胞周期亢進に必須の因子であることを見いだした。興味深いことに、NEK9は細胞周期のM期への進行に必須な因子として報告されているが、p53が不活性化した細胞では、M期の進行ではなく、G1-Sの進行に必須であることを見出した。NKE9のこの機能はこれまでに報告がないことから、NEK9複合体を同定し、その機能を明らかにすることとした。p53野生型であるHCT116細胞と、変異型がん細胞であるSW480を用いて、抗NEK9抗体によってNEK9複合体を部分精製し、質量分析により相互作用因子の同定を行った。得られたデータには、これまでにもNEK9との相互作用の報告があるFACT形成因子を認めたが、同定されたタンパク質フラグメントは少なかった。一方、翻訳制御因子であるeIF4G1とそれと相互作用する他の翻訳制御因子が多く同定された。実際に、免疫沈降-イムノブロット解析でもeIF4G1とNEK9の相互作用は、HCT116とSW480の両細胞株で認められた。p53変異とNEK9複合体及びeIF4G1との関連を明らかにするため、細胞質に局在するNEK9複合体の分子密度をスクロース密度勾配遠心法によって検討した。興味深いことに、HCT116細胞においては、eIF4G1の局在は、ポリリボソームの局在と類似しており、タンパク質の合成に関与していることが示唆された。一方、SW480細胞に於けるeIF4G1の局在は、ポリリボソーム及びモノソーム、リボソームサブユニットのどれとも一致せず、NEK9複合体の中でも特にeIF4G1の機能がp53変異状態によって異なる可能性が強く示唆された。現在、さらに詳細な解析を行っている。
2: おおむね順調に進展している
NEK9複合体の同定が順調に進んでいる。相互作用因子をsiRNAでノックダウンするとp53変異がん細胞の増殖が抑制される。NEK9を同定した際の考察としては、一つの細胞内経路の阻害では効果が限定的であり、他の細胞内ネットワークの理解も必要ということである。eIF4GにはG1とG2のファミリータンパク質が存在するが、G2はグローバルな遺伝子翻訳過程に関与している一方、G1は増殖関連因子の翻訳に必要との報告がある。NEK9-eIF4G1複合体と相互作用するmRNAを同定することで、p53変異がん細胞の細胞周期制御に関して分子メカニズム解明の糸口となることが期待出来る。次年度は、mRNAの同定とリコンビナントタンパク質を用いた、詳細な解析を行う。これまでの進捗はおおむね予定通りである。
NEK9と相互作用するRNA分子の同定:NEK9複合体の同定は、内在性のNEK9を認識する抗体を利用して行った。より詳細な解析のために、リコンビナントタンパク質を作成する。NEK9のN末端に分子量の大きなタグ(EGFPやHalo-tagなど)を連結すると、細胞内で適切な複合体を形成できないことがわかった。したがって、C末端にMycタグを導入したリコンビナントを作成する。それを安定的に発現する細胞株を樹立し、eIF4G1との相互作用、さらにはmRNAの網羅的解析を行う。RNA解析は次世代シークエンサーを利用し、mRNAはsmall RNA、non-coding RNAも含んだ解析を行う。NEK9-eIF4G1複合体に含まれる他の因子についても解析を行う。NEK9-eIF4G1複合体の機能解析:同定した複合体の標的mRNAsを用いて、複合体の機能の詳細を検討する。特に、p53野生型と変異型がん細胞の増殖に対して、複合体がどのような機能を有するか、標的遺伝子の発現について検討を加える。さらに、標的遺伝子の発現抑制(もしくは亢進)によってp53不活化がん細胞の選択的増殖抑制が可能であるか否か検討を加える。マウスモデルによる解析:マウスモデルを用いて、NEK9-eIF4G1複合体の阻害によるp53変異がん細胞の選択的増殖抑制効果の検討を行う。また、eIF4G1の阻害剤は、開発されていることから入手を試みる(市販はされていない)。eIF4G1の阻害によって、p53変異に対して選択性を示すか否かの検討を行う。さらに、NEK9-eIF4G1複合体の標的遺伝子の発現抑制(亢進・活性化)によってp53変異がん細胞に与える影響を解析する。上記、戦略によりp53不活化がん細胞の排除方法を探索する。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
J. Thoracic Oncol.
巻: 10 ページ: 1037-1048
10.1097/JTO.0000000000000560