研究課題/領域番号 |
15H04310
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
中村 貴史 鳥取大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (70432911)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 癌 / ウイルス療法 / トランスレーショナルリサーチ / バイオテクノロジー / 遺伝子治療 |
研究実績の概要 |
癌ウイルス療法は、ウイルスが本来持っている癌細胞に感染後、癌組織内で増殖しながら死滅させるという性質を利用する方法である。これまで、MAPK/ERK経路の異常を指標にして、癌特異的に増殖し破壊するワクシニアウイルスMDRVVの開発に成功した。 そこで本研究では、容易に他臓器に転移する難治性悪性腫瘍に対する新規癌ウイルス療法の確立を目指す。1)膵臓癌モデルマウスにおいてMDRVVの抗癌効果と安全性を評価する。又、2)痘瘡ワクチン接種歴がある癌患者でもMDRVVの全身投与により転移した腫瘍へ到達する可能性を検証するとともに、3)癌細胞における本経路の様々な遺伝子異常とMDRVVの増殖性の関係を明らかにする。さらに、4)MDRVVの増殖・伝播に関わる宿主因子の同定とそのバイオマーカーとしての有用性検証や、5)癌免疫療法との併用による抗癌効果の増強を試みる。 本年度は、1)に関して、ヒト膵臓癌細胞株AsPC-1から抗CD44v9抗体により濃縮した癌幹細胞分画を用いて、腹膜播種モデル又は肝転移モデを構築し、前者はMDRVVの腹腔内投与、後者はMDRVVの静脈内投与にて抗癌効果を検証した。その結果、副作用なく前者では治療11日後には腹膜播種した96.7%のがんは消失し、後者では生理食塩水群に比べ有意に生存率を延長させた。2)に関して、種痘接種歴がある癌患者21人の殆どはワクシニア抗体価が検出限界以下もしくは低く、中和活性が認められたのは強陽性を示した3人のみであった。3)に関して、膵臓癌患者の手術摘出検体より腫瘍の組織片培養系を確立し、MDRVVはMAPK/ERK経路が活性化されている腫瘍細胞でのみ増殖することを実証した。4)に関して、MDRVVの抗癌効果を予測するバイオマーカーになり得るUCA1を同定した。5)に関して、様々な免疫制御遺伝子を発現するMDRVVを作出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究項目1)に関しては、癌転移モデルマウスにおけるMDRVVの腫瘍特異的増殖、抗癌効果と安全性を実証する研究項目を完了した。 研究項目2)に関しては、臨床検体を用いて評価する研究目標を達成した。 研究項目3)に関しては、癌患者の手術摘出検体より腫瘍の組織片培養系の確立と、MDRVVの腫瘍増殖性とMAPK/ERK経路の活性化異常の関係を解析する研究目標を達成した。 研究項目4)に関しては、バイオマーカーとして宿主因子UCA1を同定し、その有用性をヒト卵巣癌細胞株や卵巣癌患者の初代培養癌細胞において実証する研究目標を達成した(特許出願済)。 研究項目5)に関しては、癌免疫療法との併用による抗癌効果の増強のため、腫瘍反応性リンパ球の活性化を誘導するサイトカインや刺激性の共シグナル、さらに腫瘍微小環境の免疫抑制メカニズムを阻害する分子を発現する免疫制御型MDRVVを作出する研究目標を達成した。 上記により、当初の研究計画にそって、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
研究項目2)と3)に関しては、28年より継続して実施する。癌患者より採取した血清、又は腹水中における抗ワクシニアウイルス抗体価は、RK13細胞を用いたプラーク中和試験、又はワクシニアウイルスを抗原としたELISA試験により算出する。各患者血清・腹水の存在下、非存在下において、癌細胞株にMDRVVを感染させ、3日後のウイルス感染と増殖をGFP発現とルシフェラーゼ活性によって、腫瘍溶解性を細胞増殖試験(プロメガ社)によって評価する。一方、癌患者の手術摘出検体を用いた腫瘍(正常組織含)の組織片培養において、MAPK/ERK経路などにおける各遺伝子変異とウイルス増殖性を評価する。抗体価や遺伝子変異とMDRVVの感染・増殖・腫瘍溶解性との関係を明らかにし、本治療戦略の妥当性を確認する。 研究項目4)に関しては、MDRVVの増殖・伝播に関わる宿主因子として、28年度に同定したUCA1以外の宿主因子の発現を、ヒト卵巣癌患者由来の初代培養癌細胞や細胞株を用いて定量PCR、及び免疫染色によって確認する。腫瘍細胞におけるMDRVV増殖性の解析結果と照らし合わせ、バイオマーカーとしての有用性を総合的に評価する。 研究項目5)に関しては、マウス大腸癌MC38細胞を同系C57BL/6マウスの両側の皮下に移植し、その腫瘍直径が0.6cmに到達した時、生理食塩水、MDRVV、又は各免疫制御型MDRVVを右側の腫瘍にのみ投与する。ウイルスを投与した腫瘍、及び投与しない遠隔の腫瘍の大きさと体重を一週間に三回測定し、各治療群における局所性、及び全身性の抗癌効果を比較検討する。一方、抗腫瘍免疫効果を判定するため、腫瘍内の各種サイトカイン、免疫細胞の腫瘍内侵潤、癌特異的細胞障害性T細胞の活性を測定し、これらの抗腫瘍免疫効果と各ウイルスの増殖による腫瘍溶解効果を総合的に評価する。
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