研究課題
本年度の研究では、新たな癌抗原として口腔・食道癌、肺癌および膵臓癌ほかに高頻度に高発現する癌精巣抗原IMP3、肝細胞癌に高頻度に高発現する癌胎児性抗原GPC3、ならびに膀胱癌に高頻度に高発現する癌精巣抗原DEPDC1を対象として、細胞傷害性T細胞(CTL)とCD4+タイプ1ヘルパーT細胞(Th1)細胞を、共に誘導することにより強力な腫瘍免疫を誘導できる、長鎖癌抗原ペプチドの同定を試みた。HLAクラスII分子(HLA-II)に結合するペプチドを推定する最新のアルゴリズムで、候補ペプチドを探索して合成し、健常人あるいはペプチドワクチン接種前後の口腔癌または膀胱癌患者の末梢血単核細胞(PBMC)を刺激して、Th1細胞を誘導する長鎖ペプチドと抗原提示に関与するHLA-IIを同定した。その結果、日本人で頻度が高い複数のHLA-Ⅱに結合して、主にTh1細胞を誘導できる長鎖ペプチドを、IMP3とGPC3については複数同定できた。またDEPDC1についても、同様の長鎖ペプチドの同定を開始した。さらに長鎖ペプチドを樹状細胞に負荷した際に、短鎖CTLエピトープが産生され、CTLを活性化するものを同定した。また一部の長鎖ペプチド特異的なTh1細胞が、in vitroにおいてCTLの抗腫瘍免疫応答を増強できることを確認した。平成28年度以降に使用する予定である、樹状細胞内に取り込まれた長鎖ペプチドをエンドソームから細胞質へ送達するための、pH感受性ポリマー修飾リポソームに包埋された長鎖癌抗原ペプチドを作製した。先駆的実験により特定の長鎖ペプチドについては、その樹状細胞への負荷により、期待どおりに長鎖ペプチドに内包された短鎖ペプチドに特異的なCTLを誘導する(Cross presentation)効率が、増強することを確認できた。
2: おおむね順調に進展している
当初の研究目標である、従来の研究によりHLA-A2あるいはHLA-A24分子に結合して提示されることにより、CTLを誘導できる癌抗原由来の短鎖ペプチドで、口腔癌あるいは肝細胞癌の患者への免疫療法の臨床研究が奏功した、癌精巣抗原IMP3あるいは癌胎児性抗原GPC3について、日本人で頻度が高い複数のHLAクラスⅡ分子に結合して、主にTh1細胞を誘導できる長鎖ペプチドを複数同定できた。また、これらの長鎖ペプチドの一部は、樹状細胞に負荷した後にCTLをも活性化できた。さらに膀胱癌に高率に高発現するがん精巣抗原であるDEPDC1についても、同様の解析を開始することができ、平成28年度には成果が期待できる。また当初先駆的研究として計画していた、pH感受性ポリマーで修飾されたリポソームに包埋された長鎖癌抗原ペプチドを作製し、これを樹状細胞に負荷することにより、期待どおりにCTL誘導効率が著明に増強することも確認できた。したがって当初の研究計画は、おおむね順調に進展しており、年次計画の目標を十分に達成できていると判断した。
平成28年度は口腔癌あるいは肝細胞癌の患者において、CTL誘導性短鎖癌抗原ペプチドによる免疫療法の臨床研究が奏功した、癌精巣抗原IMP3あるいは癌胎児性抗原GPC3について、さらに多くの長鎖ペプチドの同定を試みる。また膀胱癌に高発現する癌精巣抗原DEPDC1についても、多様なHLAクラスⅡによりTh1細胞に提示される、長鎖ペプチドを複数同定し、このようなTh1細胞が癌抗原タンパク質を取り込み、これをプロセスした樹状細胞に反応するかどうか検討する。さらにこのような長鎖ペプチドを多数同定し、CTLをも誘導できるものを選りすぐる。このような研究を、健常人ならびに癌患者の血液サンプルを用いて実施し、さらにin vitro培養系に免疫抑制を解除するPD-1/PD-L1に対する抗体を添加して、CTL/Th1細胞応答への影響を検討する。樹状細胞内に取り込まれた後に、上記の新規に同定された長鎖ペプチドをエンドソームから細胞質へ送達すべく作製された、低pH感受性ポリマーで修飾されたリポソームに包埋された長鎖癌抗原ペプチドについて、CTLエピトープ短鎖ペプチドの抗原提示効率が増強されるか否か検討する。さらにCD14陽性のヒト単球に遺伝子を導入して発現させ、増殖特性が優れたミエロイド系細胞株(CD14-ML)を樹立して、同細胞株より大量の樹状細胞を分化誘導する。このような樹状細胞が上記の長鎖癌抗原ペプチドを効率良く、CTL/Th1細胞に提示し活性化できるかどうか検討し、その癌免疫療法への応用の可能性を探る。
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