研究課題
これまでの研究により、がん細胞に高頻度に高発現するが、免疫系から隔離された精巣や胎児期の臓器以外の正常成人臓器にはほとんど発現しない、がん抗原を複数同定した。これらのがん抗原に由来しHLAクラス1分子に結合してがん細胞表面に発現し、これを認識したキラーT細胞(CTL)に、がん細胞の死滅を誘導できる短鎖ペプチドで、がん患者への投与によりCTLを誘導できたがん抗原を厳選した。本年度の研究成果として、これらのがん抗原について、日本人で頻度が高い複数のHLAクラスⅡ分子に結合して、CTLの誘導を増強できるヘルパーT(Th)細胞に認識され、同細胞を活性化できる合成長鎖ペプチドを多数同定した。さらに合成がん抗原長鎖ペプチドで誘導したTh細胞が、がん抗原タンパク質を取り込ませた樹状細胞に反応することを確認した。また、これらの長鎖ペプチドの中から、樹状細胞に取り込まれ分解されて出来た短鎖ペプチドにより、CTLをも同時に活性化できるものを、従来よりさらに多数同定した。このような現象を、複数の健常人とがん患者の血液サンプルを用いて観察できた。また試験管内での培養系にT細胞の免疫抑制を解除するPD-1に対する抗体を添加することにより、CTLとTh1細胞のがん抗原に対する免疫反応が増強されることを観察した。さらにCD14陽性のヒト単球に、細胞増殖を促進あるいは細胞死を抑制する遺伝子を導入して発現させ、増殖特性が優れたミエロイド系細胞株(CD14-ML)を樹立して、同細胞株より大量の樹状細胞(CD14-ML-DC)を分化誘導する方法を開発した。このCD14-ML-DCに上記の長鎖がん抗原ペプチドを負荷し、ヒト末梢血T細胞を刺激したところ、効率良くCTLおよびTh細胞を誘導できた。以上の研究成果は、同定したがん抗原長鎖ペプチドの、がん免疫療法への応用の可能性を支持するものである。
2: おおむね順調に進展している
既に我々が過去の研究により同定した、がん免疫療法の臨床応用に適した性質を有する、新規がん抗原(がん精巣抗原とがん胎児性抗原)について、当初計画していた以下の研究を遂行し成果を得ることが出来た。1)日本人で頻度が高いHLAクラスⅡ分子により提示され、Th細胞を活性化できる長鎖ペプチドを多数同定した。2)誘導されたTh細胞がCTLの誘導を増強できることを確認した。3)CTLが認識する短鎖ペプチドを内包する、がん抗原長鎖ペプチドでTh細胞のみならずCTLをも同時に活性化できるものを多数同定した。4)試験管内でがん抗原ペプチドに対するCTL/Thの免疫応答が、抗PD-1抗体により増強されることを観察した。5)ヒト単球に遺伝子操作を加えることにより、がん抗原長鎖ペプチドの負荷により、CTLとTh細胞を誘導できる樹状細胞を大量に作成する方法を開発した。当初予定していた、低pH感受性ポリマーで修飾されたリポソームに包埋された長鎖癌抗原ペプチドが、樹状細胞においてCTLを活性化する短鎖ペプチドの産生効率を、増強できるか否か検討する実験については、リポソーム作成を担当する共同研究者の逝去により実現できなかった。平成29年度には、これを検討する準備が整っているので、これを実施したい。
平成27~28年度の研究成果をさらに発展させて、より多くのがん抗原およびがん腫を対象として多面的な臨床応用に適した、がん抗原長鎖ペプチドを同定する。また平成28年度に共同研究者の逝去により実現できなかった、低pH感受性ポリマーで修飾されたリポソームを利用した、長鎖ペプチドよりの短鎖ペプチドの切り出し効率の向上による、CTL誘導効率の増強について検討する。つまり樹状細胞のエンドソーム内に取り込まれた後に、低pH感受性ポリマーで修飾されたリポソームに包埋された長鎖癌抗原ペプチドが、ポリマーの性質に従いpHが低くなったエンドソームの膜とリポソームの融合により、リポソーム内包物が細胞質に送達され、CTLを活性化する短鎖ペプチドの産生効率が増強するか否かについて、多数のがん抗原長鎖ペプチドを対象として検討する。既に我々は担がんマウスにおいて、がん細胞を死滅させるCTLの活性化を促進するTh細胞の誘導が、Th細胞へのIL-6シグナルの作用を介して抑制されていることを報告している。そこでヒトのがん患者においても、同様の現象が発生しているか否かを検討し、さらにIL-6シグナルの阻害によりT細胞を介した、抗腫瘍免疫応答を回復できるか否か検討する。以上の基礎実験データが蓄積された後に、その臨床応用に向けて安全性の確認や、介入を伴う臨床研究の開始に向けて準備を実施する。
すべて 2016 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 3件) 備考 (1件) 産業財産権 (2件) (うち外国 2件)
OncoImmunology
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実験医学(羊土社) 「がん免疫療法 腫瘍免疫学の最新知見から治療法のアップデートまで」
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http://www.immgenet.jp/