研究課題/領域番号 |
15H04318
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
鈴木 穣 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (40323646)
|
研究分担者 |
土原 一哉 国立研究開発法人国立がん研究センター, 先端医療開発センター, 分野長 (00415514)
山下 理宇 東北大学, 東北メディカル・メガバンク機構, 准教授 (10401259)
河野 隆志 国立研究開発法人国立がん研究センター, 研究所, 分野長 (80280783)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 単一細胞解析 / 次世代シークエンス / 多層オーミクス / 細胞多様性 |
研究実績の概要 |
本研究では、単一細胞解析に応用可能な転写開始点解析、エピゲノム解析(オープンクロマチン解析とDNAメチル化解析)について、多層オーミクスの各階層で基盤技術開発を行ってきた。これまでに、RNA解析、転写開始点解析についてはその基礎検討を完了し、また今年度、ATAC法を援用する形で初めて単一細胞におけるエピゲノム計測を、高い再現性と信頼度をもって行う実験系を確立することに成功した。その再現性よびバルク細胞により得られたデータとの互換性について、高い信頼性を示しており、十分に実用に耐える方法論の開発に成功したと考えている。 開発された手法を用いて、がん細胞単一細胞における転写制御ネットワークの多様性の解析を行い、興味深い知見を得ている。さらに、これらの手法を技術基盤に、いくつかの共同研究を開始しており、多くの実験系においての実用を開始している。 データの公開体制に整備についても概ね、目途を立てることができた。単一細胞多層オーミクスデータを格納するデータベースおよびデータを表示するウェブブラウザの準備が整っている。今年度、夏からを目途に、基礎検討の過程で産出されたデータから初めて、順次産出される順次一般にデータ公開を行う予定である。 DNAメチル化解析については、昨年度までに十分に再現性の高い方法を確立することができなかった。これについて、現在、化学反応系から酵素反応系での素反応系の変換を試みている。最終年度にあたり、DNAメチル化解析が可能となれば、当初、計画したすべての多層オーミクスの階層について単一細胞での計測が可能となる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度までに確立された単一細胞オーミクス計測系について実際にデータの取得を行った。肺腺癌由来培養細胞数5種類を用い、抗がん剤作用下で単一細胞に惹起される発現制御多様性を計測、解析した。その結果、AURK遺伝子を中心とする転写ネットワークが、DUSP1遺伝子を中核とするネットワークと強調することにより、少数の細胞で細胞死を抑制するメカニズムの活性化が起こることが明らかとなった。同メカニズムにより細胞死を免れた細胞が抗がん剤耐性獲得細胞の発生母地として機能するとすれば非常に興味深いと考え、現在、一連の検証実験を行っている。これらの観測について、再現性、整合性が確認され次第、論文発表の形で成果を公開する予定である。また、全データについても、今年度、単一細胞多層オーミクスデータを格納するデータベースおよびデータを表示するウェブブラウザから公開する予定である。この枠組みについても別途、開発が最終段階にあり、夏頃を目途に公開可能な体制整備が完了すると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
単一細胞における転写開始点解析、エピゲノム解析(オープンクロマチン解析)についての基盤技術開発は一定の成果を成果を上げており、概ね順調に研究計画は推移していると考えている。しかし、多くの基礎検討を繰り返したにもかかわらずDNAメチル化解析については、昨年度までに十分に再現性の高い方法を確立することができなかった。これはバイサルファイト反応が化学的に苛烈な反応であって、単一細胞DNAの極微量サンプルを出発材料として用いることには、困難がともなうことが原因であると考えられた。今年度に入り、NEB社からAPOBEC酵素によりバイサルファイト反応と同様の反応を行うことが可能であるとする試薬が販売されることが公表された(ベータアクセス申請中)。同反応はバイサルファイト反応に比して、はるかに温和な反応条件で進行させるために、現在直面する多くの問題に抜本的な解決を与える可能性があると期待している。本反応系の導入によりDNAメチル化解析が可能となれば、当初、計画したすべての多層オーミクスの階層について単一細胞での計測が可能となる。
|