本年度は、北総の分断景観に生息するクツワムシについて、移動障壁になる土地利用の詳細の検討を行うとともに、長野県伊那谷の絶滅危惧種ミヤマシジミの集団遺伝構造を解析した。 クツワムシについては、15集団を対象にMantel検定を行った結果、全土地利用で抵抗値を1に設定したモデル(距離による隔離モデル)は有意にならず、複数の「抵抗による隔離」モデルが有意となった。概して水田や宅地の抵抗値が大きく、森林の抵抗値が低いモデルが選択された。しかし、競合モデル間では景観抵抗値の差が比較的大きくなった。これには土地改変後の経過時間が影響していると考えられる。一般にFSTは世代を重ねるごとに上昇し、隔離が激しい集団ほど上昇が顕著になる。距離以外の要素で隔離の強度を決めるのは生息地間の景観要素(マトリクス)の抵抗性であるため、水田や市街地の形成年代の違いにより抵抗性の値に不確実性が増したものと考えられる。 ミヤマシジミについては、7集団から得られたSNPデータをもとに主座標分析 (GenAlEx 6.503) で空間遺伝構造の解析を行った。また集団間の遺伝的分化(FST)をGENEPOPで算出した。主座標分析の結果、遺伝的類似が相対的に高い5集団、やや離れた1集団、更に離れた1集団、という3つのグループを形成した。地理的距離は、遺伝的にやや離れた集団が最も遠いため、距離以外の要素が空間遺伝構造の形成に寄与していると考えられる。一方、ミトコンドリアDNAのハプロタイプでは多様性が全く認められなかったため、近年の急激な分断化による遺伝的浮動で集団構造が形成されたことが推察された。
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