研究実績の概要 |
単細胞性シアノバクテリアSynechococcus elongatus PCC 7942株は,概日時計研究の最も単純なモデル生物である。KaiA, KaiB, KaiCの三つの時計蛋白質が概日リズムの発現に必須であるとされ,これらのタンパク質を試験管内でインキュベートすることで,KaiC自己リン酸化・脱リン酸化のリズムを再構成できることも明らかになっている。 伊藤浩史博士・村山依子博士らとの共同研究により,このKai蛋白質の再構成系が低温でリズムを停止する過程に関して詳細な解析を行い,分岐理論でいうところのHopf分岐に従っていることを明らかにし,自律振動子から変化した減衰振動子が,弱い周期外力に対して共鳴することで振幅を回復できることを報告した(Murayama et al., PNAS, 2017)。 さらに,従来必須の時計遺伝子とされてきたkaiA遺伝子の機能欠失株においても,ある条件では概日リズム特性を一部保持する減衰振動を見いだした。この減衰振動に関して,詳細な共鳴実験や位相応答解析を行い,概日振動に近い固有の振動数を持つ減衰振動であること,野生株よりも大きな光位相応答を示すことなどを明らかにした。 昨年度報告したkaiAの明暗サイクル下での成長阻害に関しては,引き続きサプレッサー変異を多数同定,解析した。 また,従来複数の研究グループが証明しようとして阻まれてきたシアノバクテリアのUV耐性リズムについても,特殊な実験プロトコールを導入することで明白なUV耐性リズムが存在することを明らかにした。そのサプレッサー変異の解析から,糖代謝との密接な関連を示唆するデータを得た。
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