研究課題
PDIファミリーメンバーの一つであるERp44はゴルジ体において、小胞体局在性酵素や構造異常タンパク質を捕まえ、小胞体に逆輸送する機能を有するタンパク質である。この機能発現において、ERp44は小胞体とゴルジ体間に存在するpH勾配を利用し、構造変化を誘起することで基質の結合解離を行っていると考えられる。平成27年度は当初の予定どおり、小胞体の生理的条件に近いpH7.5と、ゴルジ体の生理的条件に近いpH6.5の二つの条件で、ERp44のX線結晶構造解析を遂行し、共に2.1オングストローム分解能で構造決定することに成功した。その結果、ERp44によるpHセンシング機構に関する重要な知見を得た。これに加え、ERp44がpHのみならず、亜鉛イオンの結合解離によっても、その機能を制御することを新たに発見し、亜鉛イオン結合状態の結晶構造も解くことに成功した。以上の構造情報をもとに、変異体解析や培養細胞を用いた実験も系統的かつ網羅的に遂行しており、現在一つの論文についてはEMBO Journalに投稿中であり、もう一つの論文については原稿作成中である。さらにERp44の基質であることが知られているEro1との複合体の結晶構造解析について、安定な1対1複合体の形成条件をすでに詰めており、幅広い結晶化スクリーニングをすでに開始している。この研究課題についても、結晶化条件を見つけ次第、主として分子置換法により位相決定し、早急に構造モデリング、精密化を進める予定である。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定どおり、pH7.5とpH6.5の二つの条件においてERp44の高分解能結晶構造解析に成功し、ERp44によるpHセンシング機構に関する重要な知見を得た。さらにERp44の構造機能制御において重要な役割を担うもう一つの因子であるZnとの結合状態についても、高分解能結晶構造解析にすでに成功し、ZnによるERp44の構造変化を解明するに至った。これら構造情報をもとに、変異体解析ならびに細胞を用いた系統的機能解析も進めており、当初の予定よりも早いペースで進行している。さらに、安定なERp44-Ero1複合体の調整方法を確立し、すでに結晶化スクリーニングを予定どおり開始している。以上のことから、平成27年度に予定した研究計画は十分順調に進んでいると言える。
ERp44によるpHセンシング機構の構造基盤の仕事とZnによるERp44の構造機能制御機構の二つの仕事について、それぞれ論文としてまとめ、一流国際雑誌に発表することを最優先とする。さらにERp44とその基質であるEro1, SUMF1, IgM subunitとの複合体の構造解析についても達成できるよう全力を注ぐ。すでにこれら複合体の調整条件は目途が立っているため、あとは幅広い結晶化スクリーニングを行うのみである。それでも結晶がでない場合は、これら複合体と特異的に結合するナノボディやバインダータンパク質を作製し、それらとの共結晶化を試行する。さらにX線小角散乱法による溶液中での構造解析にも取り組む予定である。ERp44, Ero1の単体についてはすでに我々のグループにより高分解能結晶構造解析を達成しており、これら構造情報がX線小角散乱法による複合体構造決定においてアドバンテージになると期待される。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 3件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 5件、 招待講演 5件) 備考 (1件)
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