研究課題
ERp44は、小胞体局在性の酵素や構造未成熟の分泌タンパク質をゴルジ体で捕獲し小胞体に逆輸送することで分泌経路のタンパク質品質管理を行うPDI familyのタンパク質である。この機能においてERp44が小胞体とゴルジ体間のpH勾配を利用して構造変化を引き起こすことを我々は2013年に報告したが(Vavassori et al., Mol Cell, 2013)、ERp44のpHセンシング機構はこれまで不明であった。平成28年度は、小胞体のpHに相当するpH7.2とゴルジ体のpHに相当するpH6.5の二つの条件で結晶構造を解き、ERp44のpH変化に伴う構造変化を原子分解能で決定することに成功した。これによりERp44のpHセンシング機構に関する重要な知見がアミノ酸レベルで得られ、論文をPNASに発表した(Watanabe et al., PNAS in press)。さらに興味深いことに、ERp44の構造機能制御において、小胞体―ゴルジ体間のpH勾配に加え、亜鉛イオンの結合解離が深く関与することを発見した。ERp44の亜鉛結合状態の結晶構造を解くことに成功し、さらにキレート剤による細胞内亜鉛枯渇、および亜鉛イオノフォアによる亜鉛添加などを行い、ERp44の細胞内局在の変化や活性変化を詳細に解析した。その結果、亜鉛によるERp44の構造機能制御機構の詳細を解明するに至った。本成果についても、原稿はほぼ完成しており、国際一流雑誌に近日中に投稿予定である。
1: 当初の計画以上に進展している
ERp44のpH変化に伴う構造変化を原子分解能で決定することに成功し、ERp44のpHセンシング機構に関する論文をPNAS誌に発表したことは大きな進展である。さらに、ERp44の構造機能制御において亜鉛イオンが深く関与することも極めて重要な発見である。すでにERp44の亜鉛結合状態の結晶構造を解くことに成功し、亜鉛結合に伴うERp44の構造変化を明らかにした。さらに、種々の細胞生物学的実験かも亜鉛によるERp44の機能制御に関する多くの重要な知見が得られ、pHと亜鉛によるERp44の機能発現制御機構の全容を解明するに至っている。以上の研究の展開は当初の計画に想定していなかったものであり、当初の計画以上に研究が大きく進展していると考えている。
亜鉛によるERp44の構造機能制御に関する論文を、一日も早く国際一流雑誌に発表することを最優先事項とする。すでに原稿はほぼ完成しており、近日中に投稿予定である。レフリーからのコメントにできるだけ迅速にかつ完璧に答え、一日も早い論文受理を目指す。さらにERp44による基質認識講、さらにはKDEL受容体とERp44間の結合様式を解明するため、ERp44とその基質であるEro1aとの複合体およびERp44-KDEL受容体複合体の結晶構造解析に精力的に取り組む。すでに、ERp44-Ero1複合体の調整は完了しており、またヒト細胞を用いたKDEL受容体の大量発現精製にも成功している。したがって、上記の実験がすぐに開始できる状況にある。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件) 備考 (3件)
Proc. Natl. Acad. Sci. USA
巻: in press ページ: 未定
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