研究課題/領域番号 |
15H04337
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
廣明 秀一 名古屋大学, 創薬科学研究科, 教授 (10336589)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | DVL阻害剤 / タンパク質間相互作用 / NMRスクリーニング / インシリコスクリーニング / LIMキナーゼ / 細胞骨格制御 |
研究実績の概要 |
(1)我々が単離した細胞形態を変化させるアントラニル酸誘導体の作用機序を解明する目的で、アクチン制御シグナル伝達系の鍵酵素であるLIMキナーゼに着目した。LIMキナーゼ2のPDZドメインのNMRによる主鎖解析を行い、そのシグナルの完全帰属を達成した。 (2)(1)の結果に基づき8種類の化合物とLIMキナーゼの相互作用をNMRにより検証したが、驚くべくことに、いずれの化合物とも相互作用しなかった。残念ながら、我々の発見した化合物の作用機序としてLIMキナーゼに直接作用するという作業仮説は、棄却することとなった。 (3)他方、PCP経路(非典型Wntシグナル伝達経路)を経由して、細胞形態を制御する目的で、ヒトDVL1のPDZドメインのNMR解析を行った。主鎖シグナルの解析を行い、そのNMR信号の完全帰属を達成した。さらにDVL1-PDZに対するドッキング実験も行い、すでに保有している14種類の化合物に加え、8種類の新規阻害剤候補をインシリコ実験により見だした。 (4)新規に取得した8種類の新規DVL阻害剤候補化合物の相互作用をNMRにより検証し、そのうちの4化合物にDVLとの結合を認めた。2化合物については、これまで保有していた化合物よりも強固な結合が認められた。細胞形態制御のみならず、ガン幹細胞を標的とした新規抗がん剤候補としても期待が持てる。 (5)更に(3)の結果をもとにドッキング実験に関わるパラメータ最適化の方法論を考案した。NMR-Basedドッキング性能評価指標と命名し、学会発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アクチン制御化合物の作用機序の解明と、化合物の実用化への展開については、LIM-K2-PDZのNMR信号の帰属を完了したものの、結合する低分子化合物取得には至らなかった。そのため、創薬標的としてはLIM-K2-PDZは不適であり、より基礎研究レベルで、LIMキナーゼにおけるPDZドメインの分子機能の基礎研究へと、方針転換をすることとした。他方、Wntシグナル伝達系・DVL阻害剤に関して、市販化合物CBC322338を超える結合を示す新規化合物が発見できたと同時に、インシリコスクリーニングの予測精度の向上に関わる新規方法論(評価関数)も確立できたことは、予想を超える成果である。双方を総合して、おおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
(1)PDZ結合低分子の合理的分子設計法の確立を目指して、得られた化合物のうち標的PDZドメインと強固に結合する物について、X線結晶解析またはNMRまたは両者併用により、複合体の構造決定を進める。ZO1-PDZ1またはDVL-PDZに結合するアントラニル酸誘導体について進める。 (2)アントラニル酸以外のファーマコフォアを持つPDZドメイン結合低分子について、文献情報を参考に、他のPDZドメインへの相互作用を、インシリコ法とNMR法を併用して評価する。それらのうちTJ制御活性を示す化合物について、単なる試験管内活性のみならず、ドラッグリポジショニングの観点や、化粧品基準の観点などから、複合的に評価する。それらについては用途特許出願についても検討する。 (3)TJ制御化合物について、他の作用機序でTJバリア機能に摂動を与える分子、例えばカプロン酸系医薬品吸収促進剤などとの併用について検討する。特に、作用機序や生理機能、細胞内タンパク質変動、細胞内遺伝子発現変動の、解析を進める。 (4)アントラニル酸系化合物と、アントラニル酸以外のファーマコフォアを持つPDZドメイン結合低分子、それぞれを加えたときの各種PDZドメインの、NMRシグナル変化について、主成分分析・階層クラスター分析などの手法を導入して解析する。その結果を精査して、PDZドメイン阻害剤探索を題材とした、新規の医薬品探索手法(NMRスクリーニング法)の理論確立につなげる。 (5)可能な限り成果の論文発表を進める。
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