研究課題
新たな抗がん剤のターゲットとして注目されているCXCケモカイン受容体7は、G蛋白質共役型受容体の一種であるが、G蛋白質共役型受容体の情報伝達経路であるG蛋白質を介す経路およびβアレスチンを介す経路のうち後者だけを持つという独特の特徴を持つ。このような特徴を持つCXCケモカイン受容体7の立体構造を解明することは、G蛋白質共役型受容体のβアレスチンを介す情報伝達経路の詳細な理解や、この経路だけに作用する新規薬剤もしくは新規抗がん剤の合理的な開発に役立つ。G蛋白質共役型受容体は、柔軟性が高く不安定な膜蛋白質であるため結晶化が難しい。結晶化を成功させるためには、G蛋白質共役型受容体のループ領域を別の水溶性蛋白質に置換し、リガンドを結合させて安定化させる必要がある。またG蛋白質共役型受容体の結晶は、微結晶であることも多く、本研究では、次世代X線源であるX線自由電子レーザーを利用した効率的なデータ測定を行う必要も考えられた。そこで本年度は、CXCケモカイン受容体7のループ領域を各種水溶性蛋白質に置換し安定化させること、および、X線自由電子レーザーを用いた測定系を確立することを目指した。安定化のために、T4リゾチーム、cytochrome b562RIL、rubredoxinなどの挿入を検討した結果、cytochrome b562RILを挿入したもので野生型と比較して単分散性が大きく改善するものが得られた。発現量についても、改善した。X線自由電子レーザーを用いた測定系については、コントロール用の蛋白質を用いて検討した結果、実際に蛋白質の微結晶からデータを収集するための装置や位相決定などで実績を上げることができ、G蛋白質共役型受容体の結晶からデータを取得するための基礎が確立できた。
2: おおむね順調に進展している
CXCケモカイン受容体7の細胞内第3ループにcytochrome b562RILを挿入することで安定性や発現量を改善できた。また、蛋白質の微結晶をX線自由電子レーザーに照射させるための装置類や、位相決定法など、G蛋白質共役型受容体結晶のデータ測定にX線自由電子レーザーが使用できる目処が立った。そのため、計画はおおむね順調に進展していると判断できる。
CXCケモカイン受容体7の細胞内第3ループにcytochrome b562RILを挿入することで安定性や発現量を改善できたが、まだ結晶化には成功していない。そこで、他のG蛋白質共役型受容体の構造解析研究を参考に、CXCケモカイン受容体7に新たに変異を導入し、さらなる安定化を目指す。また、低分子リガンドや環状ペプチドなどを結合させることでも安定化を試みる。また、安定性向上の手法の一つとして、立体構造認識抗体を結合させる方法もある。これにより、膜蛋白質が一定の状態に固定されるとともに、親水性領域が増大することから、結晶化の確率も増加する。そこで、CXCケモカイン受容体7の安定化に成功したら、構造認識抗体の作製を開始する。これらの方法により結晶化に成功したら、SPring-8やSACLAでデータ収集を行う。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件)
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