研究実績の概要 |
遺伝子の転写は、転写開始・伸長・終結からなる複雑なプロセスである。RNAポリメラーゼ (RNAP) は、それ単独では遺伝子の転写を遂行することはできず、多くの転写因子がRNAPと複合体を形成してその機能を補助することで転写は達成される。転写を担うRNAP複合体構造および転写因子等による制御のメカニズムを解明するために、本年度は以下のように研究を進めた。 真核生物の核内でヌクレオソーム構造をとったDNAがどのように転写されるのかを明らかにするために、RNAポリメラーゼII (RNAP II) にヌクレオソームDNAを転写させて得られた反応産物をクライオ電子顕微鏡解析によって解析し、ヌクレオソーム上の4箇所 (SHL-6, -5, -2, -1) で停止している状態のRNAP II-ヌクレオソーム複合体の構造を得た。これらの複合体は、RNAP IIがヌクレオソームDNAを転写する一連のスナップショットを示しており、RNAP IIはヒストンからDNAを徐々に引き剥がしながらヌクレオソーム上を通過していくことが明らかになった。さらに、ヌクレオソーム転写における転写伸長因子の役割を明らかにするために、3種類の転写伸長因子Elf1, Spt4/5, TFIISの存在下で得られた複合体のクライオ電子顕微鏡解析を行なった。その結果、Elf1とSpt4/5はRNAP IIとヌクレオソームの間に割り込み、接触面を作り変えることで、RNAP IIとヌクレオソーム間の相互作用およびヒストンとDNAの相互作用を低減し、スムーズなヌクレオソーム転写を実現していることが明らかになった。 また、細菌では、RNAPによるDNAの転写はリボソームによるmRNAの翻訳と密接に関連している。細菌のRNAPとリボソームが組み合わさって形成される転写-共役複合体を試験管内で再構成し、クライオ電子顕微鏡解析に着手した。
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