研究課題/領域番号 |
15H04346
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研究機関 | 旭川医科大学 |
研究代表者 |
鈴木 裕 旭川医科大学, 医学部, 教授 (50183421)
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研究分担者 |
山崎 和生 旭川医科大学, 医学部, 講師 (60241428)
安田 哲 旭川医科大学, 医学部, 助教 (80749896)
大保 貴嗣 旭川医科大学, 医学部, 准教授 (90207267)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | Ca-pump / Ca-ATPase / エネルギー共役 / リン酸化中間体 / Ca輸送 |
研究実績の概要 |
1.異なる脂質と筋小胞体Caポンプからナノディスクを形成し、脂質―ポンプ蛋白間の相互作用の機能的意義を解析した。そして電荷を持たない大きなヘッドグループのフォスファチジルコリン(PC)が最も優れたポンプ機能をもたらすこと、負電荷ヘッドを有するフォスファチジルセリン(PS)が最も不利であることを解明した。さらに脂質―ポンプ蛋白間の直接の相互作用(結合)に加えて、膜表面電荷と蛋白間のlong-range相互作用がCa輸送に重要な意義を有することを解明した。他方、Caポンプ1分子を組み込んだナノディスクを利用し、1分子蛍光顕微鏡観察と原子間力顕微鏡観察によりCa輸送サイクル中のポンプ1分子の動きの解析を進めた。 2. ATP分解に伴う3つの細胞質ドメインの動きを輸送部位に伝えるために機能する第二膜貫通ヘリックス(M2)の細胞質領域(M2c)と膜貫通領域(M2m)の各役割、およびそれらを連結するGly105の役割を部位特異的変異と速度論解析により解明してきた。さらにM2と膜脂質の相互作用の機能的意義を解明するため、界面活性化剤の影響を解析した。そしてM2を介した構造変化の伝達によるCa輸送のエネルギー共役の構造機序の理解を格段に進めた。 3.Ca閉塞型リン酸化中間体E1PCa2 の構造解明を目指し、このアナログE1Ca2BeF3の安定化因子として、触媒部位に結合するATPase補因子Mgを様々な金属で置き換え安定化条件を探った。 4.二種類のフリッパーゼそれぞれを培養細胞にて発現して膜画分を精製し、機能の速度論的解析および基質同定を進めた。 5.発癌原因となるSERCA2b遺伝子の4か所の点変異の表現型にはそれぞれで顕著な差がある事を見出し論文として公表したが、さらに、形質膜CaポンプPMCA2の変異による発癌の機序を理解するため、培養細胞による変異によるポンプ蛋白の発現に成功し、機能異常の解析を推進した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Ca輸送におけるエネルギー共役機構の構造機序について、計画した部位特異的変異と速度論的解析、Ca結合・遊離解析、構造変化の生化学的解析により、理解を格段に深めることができ、さらにそれらの情報を基に、ポンプ蛋白質-膜脂質の相互作用の機能的意義を ①界面活性剤を用いて膜脂質を除去し脂質の機能的意義を探る ②脂質の種類を変化させてCaポンプと各脂質からナノディスクを形成して機能解析する、という二つ異なる研究から推進した。 他方、作動時のCaポンプの1分子ダイナミクスを解析するための戦略、即ち特異的蛍光ラベル導入、ポンプ1分子を組み込んだナノディスク形成、そして蛍光顕微鏡による観察に成功し、さらに、各素反応の顕微鏡観察やAFM(原子間顕微鏡観察)などを展開・発展させるなど、研究計画を順調に進捗させるのみならず、研究を拡大している。 また、ENU-mutagenesisによるマウスモデル網羅的変異導入により、SERCA2b遺伝子の4か所の点変異が発癌原因となる事、しかも表現型には顕著な差がある事を見出して個体の詳細な病態解析を成果として論文として公表し、発癌機序と病態差異理解に必須の分子レベルの情報を得るための各変異のポンプ蛋白への影響を解明することの重要性を提示できた。さらに、各変異体の機能構造特性、および形質膜Caポンプ(PMCA2)異常による発癌についても同様の解析を開始し、培養細胞による発現と膜画分精製、機能解析を推進している。 二種類のFlippaseの発現系の構築と膜画分・蛋白精製、速度論的解析を推進し、反応機序や基質不明のフリッパーゼについて新たな知見を得て理解を深めている。
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今後の研究の推進方策 |
1.Ca輸送におけるエネルギー共役機構(部位特異的変異と速度論的研究):膜蛋白であるCaポンプの各残基や構造領域の機能を部位特異的変異と速度論的機能解析、構造解析により解明してきた。これらの知見を基に、今後さらにポンプ蛋白と膜脂質の相互作用の機能的意義および構造変化にともなう相互作用の変化とその意義をナノディスクや界面活性剤を利用して解明していく。他方、E1PCa2の安定構造アナログ(E1Ca2BeF3)を形成し、構造・機能特性を解析すると共に、結晶化可能にするための安定化因子検索を引き続き実施して結晶構造解明に資し、輸送機構分子機序理解をさらに進める。 2.1分子ダイナミクス技術によるポンプ作動時の1分子動態観察: 特異的蛍光標識法精査、ナノディスク利用を含めた観察面への固定技術精査・開発、動態および機能解析装置の改良による解析をさらに進めると共に、AFMによる解析も進める。他方、ナノディスクを利用して、単粒子解析も行いポンプ作動中の分子動態を解析する。 3.P型ATPaseメンバーの機能及び作動機構解明: 輸送基質が不明であるフリッパーゼ二種類について、培養細胞による発現、精製の後、速度論的機能解析を行い、基質を同定すると共に、脂質輸送とその制御の機構を解明する。 4.発癌機序: 発癌原因となるSERCA2bおよびPMCA2の各遺伝子変異が蛋白の発現と機能へ与える影響を明らかにして、既に論文として発表した病理学的知見と合わせ、発癌機序と各変異で大きく異なる病態発症機序理解のための分子基盤を確立する。
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