研究課題
細胞周期依存的な一次繊毛の形成機構を解明するため、NDR2、TTBK2、アクチンダイナミクスの機能を解析し、次の結果を得た。1)NDR2の機能解析:NDR1とNDR2は非常に類似したキナーゼであるが、NDR2の発現抑制は一次繊毛形成を抑制するのに対して、NDR1の発現抑制は繊毛形成に影響を与えない。これらのキナーゼの細胞内局在を調べた結果、NDR1は細胞質全体に分布するが、NDR2は細胞質にドット上の局在を示した。種々のマーカー分子の局在との比較から、NDR2はペルオキシソームに局在することが分かった。NDR2はC末端部にペルオキシソーム局在化シグナルに類似した-GKL配列をもつが、C末端のロイシンを除去するとペルオキシソームへの局在能が失われた。また、NDR2の発現抑制による繊毛形成の抑制は、野生型NDR2の発現によって回復したが、このC末端欠失変異体では回復しなかった。これらの結果から、ペルオキシソームへの局在はNDR2の一次繊毛形成機能に必要であることが明らかとなった。また、ペルオキシソームのこれまで知られていない新たな機能が明らかになった。2)TTBK2の活性化機構:C末端領域が自己阻害領域として機能していること、Cep164はTTBK2のC末端領域と結合することによってTTBK2の活性化を促進することを見出した。3)一次繊毛形成におけるアクチンダイナミクスの役割:TESKやLIMKなどアクチンの重合を促進するキナーゼの過剰発現によって、一次繊毛形成が抑制されるが、アクチン重合を促進する薬剤であるジャスプラキノライドJaspで処理すると、一次繊毛形成が促進されることを見出した。Jaspは、細胞増殖を促進する転写補因子であるYAPを不活性化することによって細胞周期を停止させ、その結果、一次繊毛形成が促進されることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、NDR2がペルオキシソームに局在することを見出し、その局在が一次繊毛形成に必要であることを明らかにした。この成果はペルオキシソームの新たな機能を見出した点で興味深い成果である。また、TTBK2の活性化の分子機構についてもCEp164との結合が、局在だけでなく活性化にも関わっていることを明らかにした。さらに、アクチン重合を促進する薬剤であるJasplakinolideが一次繊毛形成を促進することを見出した。この結果は、アクチン重合そのものが繊毛形成を阻害している訳ではなく、アクチンが重合していても、細胞の形態や接着性、張力等の変化によって繊毛形成が促進されることを示している。これらの成果が得られたことから、概ね順調に進展していると判断した。
NDR2については、NDR2の基質や結合蛋白質について、一次繊毛への関与を明らかにしていく。TTBK2については、細胞周期依存的な活性化機構を解明するとともに、基質の探索を行い、一次繊毛形成における役割を解明する。アクチンダイナミクスについては、細胞接着、細胞張力とYAPの活性制御と一次繊毛形成をつなぐシグナル伝達機構をさらに解析する。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件) 備考 (1件)
J. Biol. Chem.
巻: 292 ページ: 4089-4098
10.1074/jbc.M117.775916
http://www.biology.tohoku.ac.jp/lab-www/mizuno_lab/