研究課題
骨格筋細胞分化と筋再生の過程でDA-Rafの発現が上昇し,筋細胞分化と筋再生に必須の役割を果たしていることを明らかにする.マウスC2C12筋芽細胞の分化の過程で,DA-Rafの発現が顕著に誘導され,ERK活性が低下し,高頻度でアポトーシスが誘導された.またC2C12細胞にDA-Rafを過剰発現させると,増殖条件下でもERK経路が阻害され,アポトーシスが誘導された.いずれの場合にもアポトーシスは,Badを阻害するリン酸化の低下,およびcaspase-3の活性化を介して誘導された.アポトーシスは筋細胞分化における筋細胞融合の誘導を介して,筋形成や筋再生に働いていることが報告されている.したがってDA-Rafによるアポトーシスの誘導は,筋細胞分化と筋再生に重要な役割を果たしていると考えられる.DA-Rafの不活性化や発現低下が,活性型K-Rasによる肺腺がんなどのがんにつながることを明らかにし,DA-Rafががん抑制蛋白質であることを実証する.SNPの一つであるDA-Raf(R52Q)や肺がんでみられる突然変異DA-Raf(R52W)は,活性化K-Rasに結合できず,活性型K-RasによるERKの活性化と細胞のがん化を抑制できなかった.したがってDA-Rafは活性型K-Rasによるがん化に対してがん抑制蛋白質として機能していると考えられる.さらに,DA-Rafががん抑制蛋白質として作用するために,Ras-ERK経路のドミナントネガティブ拮抗因子として機能する分子機構を解析した.Rafは活性化Rasに結合しない場合には,CR2とCR3に14-3-3が結合して閉鎖構造をとり,細胞質に局在していた.一方,DA-RafはCR2とCR3を欠損している.そのため14-3-3が結合せず,常に開放構造をとり細胞膜に局在して,活性化Rasに結合しやすい状態でいた.こうしてDA-RafはRafに対してドミナントネガティブ作用を示すことが明らかになった.
2: おおむね順調に進展している
骨格筋細胞分化と筋再生におけるDA-Rafの機能については,衛星細胞由来の筋芽細胞の分化の過程においてみられるアポトーシスの誘導に,DA-Rafが働いていることを示す結果を得た.またこのアポトーシス誘導の分子機構を明らかにした.DA-Rafががん抑制蛋白質であることの実証については,SNPの一つや肺がんでみられる突然変異をもつDA-Rafが,活性型K-Rasによるがん化に対するがん抑制機能を欠損していることを明らかにした.この結果から,DA-RafはK-Rasによるがん化に対してがん抑制蛋白質として機能していることが強く示唆された.さらにDA-RafがRas-ERK経路のドミナントネガティブ拮抗因子として機能する分子機構を解明した.これについては,現在,論文を執筆中で,近いうちに投稿する予定である.
肺胞形成におけるDA-Rafの機能については,preMyFbからMyFbの分化による肺胞形成においてもTGF-βが働いているかどうかを明らかにし,さらにTGF-βによって誘導されるMyFb分化のシグナル伝達経路を解明する.骨格筋細胞分化と筋再生におけるDA-Rafの機能については,DA-Raf KOマウスを用いた解析により,DA-Rafが骨格筋細胞分化と成体における筋再生のいずれにおいても必須の役割を担っていることを明らかにする.またDA-Rafがアポトーシスの誘導を介して筋細胞融合に働く分子機構を解明する.DA-Rafががん抑制蛋白質であることの実証については,誘導的に活性化K-Rasを発現するDA-Raf KOマウスを作製し,がんが高頻度で発生する可能性を明らかにする.またDA-Rafは,がん化の形質であるストレスファイバーの消失や浸潤に対して抑制的に働くので,これらの分子機構についても明らかにする.
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (6件) (うち招待講演 2件) 備考 (1件)
J. Biol. Chem.
巻: 292 ページ: 3201-3212
10.1074/jbc.M116.763318
http://life.s.chiba-u.jp/telab/