研究課題/領域番号 |
15H04349
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
大川 妙子 (西脇妙子) 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (30432230)
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研究分担者 |
望田 啓子 (桑田啓子) 名古屋大学, トランスフォーマティブ生命分子研究所, 特任助教 (70624352)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 概日リズム / プロテオミクス / ケミカルバイオロジー |
研究実績の概要 |
哺乳類の概日時計は、時計遺伝子産物が自身をコードするmRNAの転写を抑制する「転写・翻訳のネガティブフィードバック」により発振すると考えられているが、このモデルで説明できない現象も報告されつつある。本研究では哺乳類の組織、細胞を用いて、プロテオミクスの手法により翻訳後修飾が概日リズムを示す蛋白質を網羅的に探索する。さらにその振動機構、および生体内での機能を生化学およびケミカルバイオロジーの手法を用いて明らかにすることを目的とする。 平成28年度は、プロテオミクス解析における試料の分離濃縮などの前処理の過程、および質量分析の過程で生じる誤差を排除し真の日周変動を捉えるため、内部標準を用いた分析法を検討した。具体的には、培養細胞に対して安定同位体標識アミノ酸を用いた代謝ラベル法であるSILAC法の適用を検討し、97%の蛋白質を13Cで標識できる条件を確立できた。今後は安定同位体標識サンプルを内部標準として各時系列サンプルと共に分析を行うことで、データの信頼性が大きく向上することが期待される。また、二次元電気泳動法については、細胞からの試料の調製法等の検討を進め、再現性よくスポットが得られるようになった。定量性を担保できる蛍光ディファレンシャル二次元電気泳動法(2D-DIGE)についても検討を進めた。 ケミカルバイオロジーについては、pBmal1::dlucレポーターの発光を指標にケミカルライブラリーのスクリーニングを行い、概日リズムを長周期化、短周期化する化合物、リズムの位相変異に関わる化合物がそれぞれ複数個得られた。これらのうち短周期化する化合物については、アフィニティ精製によりターゲット蛋白質の候補が得られ、現在解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
リン酸化を含む翻訳後修飾のプロテオミクス解析については、27年度のリン酸化ペプチドの前処理法および分析システムの確立と、28年度の安定同位体標識法の確立、および2D-DIGEの諸条件の検討により主要な検討項目は完了したが、実際の時系列試料を用いた解析は29年度に持ち越すこととなった。 また、ケミカルバイオロジーについては、ヒトU2OS細胞のpBmal1::dLucレポーター株を用いてリズムの周期や位相に影響を及ぼす化合物をいくつか同定することができた。当初は、これらの化合物が視交叉上核の機能に及ぼす影響を確認するため、電位感受性蛍光蛋白質ArcLightを発現するトランスジェニックマウスを樹立し視交叉上核の組織培養を行う予定であったが、28年度内には着手できなかった。一方mPER2::Lucレポーターを発現するトランスジェニックマウス由来の視交叉上核、肝臓などの組織培養系を用いて得られた化合物の効果を確認することはでき、細胞、組織ごとに効果が異なる化合物も存在した。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、SILAC法により安定同位体標識したU2OS細胞から調製した試料を内部標準として、時系列サンプルについてプロテオミクス解析を行い、リン酸化をはじめとする蛋白質翻訳後修飾の日内変動の全体像を捉えるとともに、時計遺伝子Bmal1破壊株においても同様の解析を行い、時計遺伝子の破壊がリン酸化プロテオームやその他の翻訳後修飾に及ぼす影響を確認する。また蛋白質リン酸化については特にキナーゼの自己リン酸化による活性制御に着目し、蛋白質のリン酸化リズムとの関連を明らかにする。さらに2D-DIGE法に33P正リン酸などによる放射性同位体を用いた代謝ラベル法を組み合わせた翻訳後修飾のプロテオミクス解析もあわせて実施する予定である。 また28年度に実施したケミカルスクリーニングにより得られた概日リズムに影響を及ぼす化合物群について、本年度はアフィニティ精製によりターゲット蛋白質の同定を目指すとともに、これらの化合物の存在下、非存在下でプロテオミクス解析を行うことにより、細胞内プロテオームの概日変動に対する影響を確認し、蛋白質レベルのリズムと転写・翻訳フィードバックループとの関連など、細胞内の概日時計システムの全体像を明らかにする。またU2OS細胞を用いたモデル系で確認された現象の生体内における意義を確認するため、野生型および時計遺伝子Clockに変異を持つマウスから調製した視交叉上核や末梢の組織培養を用いた解析も進める。
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