研究課題
生体内のシアル酸の多くは細胞表面から外に突き出す糖鎖の末端に見出されている。そのシアル酸糖鎖は、周囲に位置する細胞や細胞外からのシグナルを最初に感知する場であり、環境の変化に鋭敏に対応する場とも考えられる。細胞膜タンパク質のシアル酸増加は、がん転移浸潤に関連する現象とされ、細胞表面のシアル酸含量が転移能と相関するという報告も多くなされている。しかし近年、必ずしもシアル酸の量とがん浸潤転移能が相関するとは限らない例も見出されたことによって、シアル酸の機能に関する研究は下火になりつつある。これまで、シアル酸の機能に関する研究では、主にα2,3とα2,6結合様式を区別せずにその解析がなされてきた。従って一見矛盾に見える結果が多く報告されてきた。我々は、がん細胞の転移浸潤と深く関わるN型糖鎖分岐構造の主な糖鎖遺伝子であるGnT-IIIとGnT-Vの発現とシアル酸発現との関連性に注目し解析した。その結果、GnT-IIIの発現はα2,3シアル酸の発現を著しく抑制したが、逆にα2,6シアリル化を促進した。面白いことに、α2,6シアル酸転移酵素(ST6Gal-I)の欠損または低発現する細胞では、GnT-IIIはがん転移抑制を示すが、ST6Gal-Iの高発現または強制発現細胞ではGnT-IIIは逆にがん転移促進に働く。それによって、これまでに一連一見矛盾に見える結果を解釈することができるようになった。
2: おおむね順調に進展している
がん細胞のα2,3とα2,6シアル酸の異なる機能に注目し、シアル酸による細胞機能制御の分子機構の解明を目指すため、がん細胞の転移浸潤、EMT (epithelial mesenchymal transition:上皮間葉移行)と深く関わるN型糖鎖分岐構造の主な糖鎖遺伝子であるGnT-IIIとGnT-Vの発現とシアル酸発現との関連性を明らかにし、機能を解明した。
シアル酸によるEMT獲得やがん細胞の転移・浸潤・生存への影響およびその分子メカニズムを解析し、特にα2,3とα2,6シアル酸による複合体形成の制御に注目して解明する。本研究では、乳がん細胞の転移浸潤に重要とされているインテグリンα3β1、α5β1とα6β4などに焦点を絞り、α2,3またはα2,6シアル酸の修飾の有無で、それによる細胞機能および複合体形成への影響を調べる。特に、α2,3またはα2,6シアル酸を付加した受容体と、βガラクトシド特異的に結合する動物レクチンであるガレクチンとの結合にも注目する。
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 6件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 5件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 3件、 招待講演 4件) 備考 (1件)
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