研究課題
本研究では研究代表者らが発見した、糖代謝酵素群の核内特異的メチル化修飾が同一のアルギニンメチル化酵素であるPRMT1によって制御されるという実験事実を基に、その介在するメカニズムを生化学的に解明することで、核内特異的な糖代謝酵素のメチル化修飾が細胞内のエネルギー代謝を制御するしくみを明らかにすることを目的とする。本年度はPRMT1バリアント間における核移行能の違いをGFP融合コンストラクトを用いて調べた。前年度までの研究成果から、培地中のメチオニン濃度が解糖系酵素のメチル化レベルに影響することが分かったが、GFP-PRMT1融合タンパク質もまたメチオニン濃度によって、核移行量が異なることが分かった。すなわち、PRMT1v1バリアントではメチオニン濃度を感知して核移行できるが、v2バリアントの細胞内局在はメチオニン濃度に関して非感受性であった。現在、メチオニン感受性を有するPRMT1v1内の責任領域を各種欠失変異体を用いて解析中である。また、我々は解糖系酵素PKM2のメチル化レベルを調べる際、メチル化部位特異的ポリクローナル抗体を使用していたが、ウェスタンブロット解析には使えるが、立体構造が認識できないため、免疫沈降、免疫組織染色には利用できなかった。そこで本年度はPKM2メチル化型特異的モノクローナル抗体を複数クローン作成し、免疫組織染色にも適用可能な良好な抗体を得た。この抗体を用いることで新たにPKM2に対する相互作用分子であるプロリン異性化酵素PIN1がPKM2のメチル化レベルを制御するとともに核内におけるPRMT1の発現量にも影響することが分かった。PIN1がPKM2の2量体⇔4量体の遷移に重要であることは以前から指摘されていたが、現在PIN1によるPRMT1の局在変化に関してその作用機序の解析を行なっている。
2: おおむね順調に進展している
今年度は昨年度に引き続いて、PRMT1の細胞内局在変化のメカニズムの解明を行ない、GFP融合タンパク質の強制発現系による実験結果からPRMT1v1のみが細胞内のメチオニン濃度に応じて核移行の度合いが変わることを明らかにした。また、免疫組織染色にも使用可能な抗メチル化型PKM2抗体の取得によって、新たなメチル化制御因子であるPIN1も同定した。PIN1の発現レベルはPKM2、PFKFB3のメチル化レベルにも作用することから、本システムにおける重要なプレーヤーであることが示唆される。このように前年度の成果を更に進めることができた点で、研究の進捗状況については、現時点でほぼ順調に進行しているものと考える。
今後は過去2年間に得られた知見を元に以下の実験を計画している。(1)PRMT1v1の核移行に関する細胞内メチオニンの作用点を探るために、各種PRMT1変異体を用いたてそれぞれの移行能を調べる。(2)新たなメチル化制御因子である、プロリン異性化酵素PIN1に関し、その相互作用分子の同定や、活性制御機構を通じ、解糖系酵素のメチル化制御に関する作用機序を生化学的に明らかにする。(3)上記の研究を通じて、メチル化レベルを人為的に調節する術を導き出し、解糖系酵素の核内特異的アルギニンメチル化を標的とした、エネルギー代謝のリモデリング法を開発する。
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