研究課題
本研究では、抗原蛋白質の溶解性が免疫応答に及ぼす影響を物理化学的な視点から解析することを目的とする。そのため、研究代表者が開発した、ペプチド系溶解性制御タグ(蛋白質の末端に付加することで、溶媒条件を変えずに蛋白質の溶解性のみを制御できる5残基ほどの短い配列;SCPタグ)を用いて、抗原蛋白質の溶解性を制御し、溶解性の変化が免疫応答に及ぼす影響、及びその分子機構を詳細に解析し、さらに抗原性を制御するためのタグ配列の改良法・設計法を開発する。本計画では、抗原蛋白質のモデルとして2種類の蛋白質を用いた。まずは、蛋白質の折り畳み研究に長年用いられてきた牛膵臓トリプシン阻害蛋白質(BPTI;分子量=6.5kDa)を用いた。先行研究でBPTI変異体の構造及び物性の解析を進めてきたため、扱いが特に容易なモデル蛋白質である。2つ目のモデルには、アジア地域で公衆衛生上の問題となっているデング熱の病原体であるデングウイルス由来の糖エンベロープ蛋白質第3ドメイン (ED3; 分子量=12kDa)を用いた。ED3は、ウイルスと宿主細胞の膜融合に必須な部位と抗体認識部位の両者を有するため、ウイルス感染において極めて重要な役割を果たす蛋白質であり、先行研究で結晶構造を決定したことなどから、本研究のモデル蛋白質に選択した。現在までに、イソロイシンなどの疎水性アミノ酸から成るSCPタグを付加すると、モデル蛋白質の溶解性が低下し凝集してしまうが、一部が可溶性画分に留まって大きな会合体を形成することを発見した。また、蛋白質の可溶な会合体の生化学的な安定性を、限定分解法を用いて調べた。その結果、大きな会合体を形成する変異体ほどプロテアーゼ分解に対する安定性が高いことが明らかになった。また、マウスを用いた免疫応答実験の予備実験を実施して、SCPタグを付加することでモデル蛋白質の免疫原性が変化することを確認した。
3: やや遅れている
当初の想定に反して、免疫応答の実験に用いるマウスの飼育施設の移設工事を行う必要が生じたため、一時実験が遅れていたが、免疫応答実験を昨年10月に開始し、現在は実験を順調に進められる見通しである。結果的に、当初計画で予定していたすべての実験を2017年度末までに実施できると考える。
次年度には、マウスを用いた免疫応答実験を本格的に開始し、SCPタグ付加による抗原性の変化とSCPタグによる会合状態の変化を詳細に比較する。特に、多種類のSCPタグを用いた実験を実施することで、免疫学における謎の一つである凝集性(又は今年度の実験で明らかにした会合状態)と抗原性の関係が明らかになると期待される。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 3件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 1件、 招待講演 3件)
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