本研究では、研究代表者が開発したSCPタグ(ペプチド系溶解性制御タグ)を用いて、抗原タンパク質の凝集又は会合が、その免疫原性に与える影響とその分子機構を物理化学的な視点から系統的に解析することを目的とした。SCPタグは、対象タンパク質の末端に付加することで、溶媒条件を変えずにタンパク質の溶解性のみを制御するための3~5残基の短い配列である。 本研究は、溶解性制御タグの免疫原性への効果が普遍的であることを示すため、2種類のタンパク質を用いた。1つ目は、研究代表者もタンパク質の折り畳み研究で用いた牛膵臓トリプシン阻害タンパク質(以下、BPTI;分子量=6.5kDa)を用いた。2つ目のモデルには、アジアの広い地域で公衆衛生上の大きな問題となっているデング熱の病原体であるデングウイルス由来の糖エンベロープタンパク質第3ドメイン (以下、ED3; 分子量=12kDa)を用いた。ED3は、ウイルスと宿主細胞の膜融合に必須な部位と抗体認識部位の両者を有するため、ウイルス感染において極めて重要なタンパク質である。 平成27年度と28年度の研究では、SCPタグを両モデルタンパク質の末端に付加することで会合度が制御可能であることを示し、会合度の温度、濃度及びSCPタグ配列種の依存性を、生物物理学的な測定を用いて詳細に検証した。平成29年度には、マウスを用いた免疫応答実験を本格的に実施し、SCPタグ付加による抗原性と、会合度の変化を詳細に比較評価することで、両者の関係の解明を試みた。その結果、免疫原性を飛躍的に向上する4から5残基から成るSCPタグを同定した。将来的には、これらのSCPタグの免疫原性向上のメカニズムを更に詳細に解析し、ワクチン開発やモノクローナル抗体の生成への応用を試みる予定である。
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