研究課題
凝集は最も基本的な蛋白質の特徴であるが、一般に研究の対象とは見なされてこなかった。本研究では、さまざまな蛋白質の凝集状態の構造・物性・構造転移反応を、熱力学的、速度論的に解析し、それらが「溶解度」、「過飽和」、「結晶性およびガラス性状態の区別」によって、原理的かつ包括的に理解できることを証明する。蛋白質凝集を原理的に理解することにより、蛋白質研究の基盤を大きく広げる。さらに蛋白質凝集を制御することが可能となる。平成27年度は以下の実績をあげた。(1)熱力学的機構:β2ミクログロブリンやニワトリ卵白リゾチームを材料として、等温滴定熱量計を用いてフォールディングとアミロイド凝集、アモルファス凝集を全て含めた蛋白質の構造安定性の熱力学的機構の一般性を確立することを目指した。へパリンはアミロイド凝集を促進すると共にアモルファス凝集も促進する。リゾチームを用いてへパリンの効果を様々な条件を検討したが、アミロイド凝集とアモルファス凝集を区別することは容易でなかった。他方β2ミクログロブリンでは、へパリンによってアモルファス凝集の促進されることが、熱量計からも観測された。(2)速度論的機構:プレートリーダを用いるHANABIおよび、通常の蛍光光度計のセルに直接超音波を照射するシステムを利用して、アミロイド線維とアモルファス凝集の競争的形成を調べた。添加剤としてへパリンの効果を調べた。へパリンは、条件に依存してアミロイド形成を促進あるいは抑制した。このような複雑な現象は、へパリンによって過渡的に形成される凝集体の安定性に依存し、「オストワルトの成熟則」によって理解できると考えられた。(3)断片ペプチドのアミロイド線維形成:卵白アルブミンよりアミロイド性のペプチド領域を単離することができた。このペプチドを化学合成して、アミロイド線維を形成することを確認した。
2: おおむね順調に進展している
当初計画した以下の研究項目に対して、新たな展開が得られた。(1)熱力学的機構:等温滴定熱量計を用いたアミロイド線維形成の解析をβ2ミクログロブリンと卵白リゾチームで進めた。β2ミクログロブリンに対するへパリンの効果において、アモルファス凝集とアミロイド線維形成を区別することができた。(2)速度論的機構:光散乱とアミロイドに特異的なチオフラビンT蛍光を測定することによってアモルファス凝集とアミロイド線維形成を区別することができた。これより、アモルファス凝集は、アミロイド線維形成を促進する場合と抑制する場合の両方のあることを明らかにした。(3)以上の結果を踏まえて蛋白質のアミロイド凝集における過飽和の役割を提唱して総説を発表した。Revisiting supersaturation as a factor determining amyloid fibrillation. So, M., Hall, D. and Goto, Y. Curr. Opin. Struct. Biol. (2016) 36, 32-39.
当初の計画に従って研究を進めるが、特に以下の項目に重点をおく。蛋白質のアミロイド線維形成とアモルファス凝集との関係は、溶質の結晶化とガラス化の関係に類似している。このような視点から、物質の結晶化において古典的かつ重要な概念である「オストワルトの成熟則」を念頭において研究を進めることが有用であると考える。これによって従来、混乱していた「アミロイド線維形成におけるアモルファス凝集の役割」を解明することが期待できる。(1)熱力学的機構:引き続き、等温滴定熱量計を用いることによってフォールディングとアミロイド凝集、アモルファス凝集を全て含めた蛋白質の構造安定性の熱力学的機構の一般性を確立する。(2)速度論的機構:プレートリーダを用いるHANABIおよび、通常の蛍光光度計のセルに直接超音波を照射するシステムを利用して、アミロイド線維とアモルファス凝集の競争的形成に注目して凝集の普遍的機構を調べる。(3)断片ペプチドのアミロイド線維形成:卵白アルブミンやβ2ミクログロブリンと酵素消化断片ペプチドをモデルとして、アミロイド原性領域を明らかにすると共に、複雑系がもたらす抑制効果を示す。(4) 添加剤の作用機構と相転移:へパリンをモデルとして、さまざまな蛋白質のアミロイド線維形成に対する効果を調べ、物質の結晶化とガラス化、相転移の相図をもとに理解する。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 6件、 査読あり 6件、 謝辞記載あり 6件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 5件、 招待講演 5件) 備考 (1件)
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