研究課題
凝集は最も基本的な蛋白質の特徴であるが、一般に研究の対象とは見なされてこなかった。本研究では、さまざまな蛋白質の凝集状態の構造・物性・構造転移反応を、熱力学的、速度論的に解析し、それらが「溶解度」、「過飽和」、「結晶性およびガラス性状態の区別」によって、原理的かつ包括的に理解できることを証明する。蛋白質凝集を原理的に理解することにより、蛋白質研究の基盤を大きく広げる。さらに蛋白質凝集を制御することが可能となる。平成28年度は以下の実績をあげた。(1)アミロイド線維とアモルファス凝集の競争的形成:昨年に引き続きβ2ミクログロブリンやニワトリ卵白リゾチームを材料として、フォールディングとアミロイド凝集、アモルファス凝集を全て含めた蛋白質の構造安定性の熱力学的および速度論的機構の一般性を確立することを目指した。(2)ポリリン酸による蛋白質凝集とアミロイド線維形成の促進:ポリリン酸は強く負に帯電した高分子であり、生体内においてはリン酸基の備蓄に使われると共に、添加物として、さまざまな食品に含まれる。ポリリン酸が、蛋白質の凝集、ひいてはアミロイド線維形成を強く促進することを見出した。(3)ThTサイレントな線維中間体による主鎖支配的線維構造:アミロイド線維に強力な超音波を照射することにより、アミロイド線維に特異的に結合するチオフラビンTの蛍光強度が減少した。β2ミクログロブリンとインスリンを用いて、強力な超音波照射によって、線維の二次構造は変化していないが、三次構造が変化した中間体の形成することを明らかにした。(3)断片ペプチドのアミロイド線維形成:β2ミクログロブリンの断片ペプチドK3の線維形成に対する他のペプチドや全長β2ミクログロブリンの効果を検討した。
2: おおむね順調に進展している
当初計画した以下の研究項目に対して、新たな展開が得られた。(1) アミロイド線維とアモルファス凝集の競争的形成:卵白リゾチームに対するヘパリンの作用機構に関する研究を進め、ヘパリンが異なる二つの機構(電荷効果と塩析効果)によって、アミロイド線維を誘導することを明らかにした。(2)ポリリン酸による凝集促進:ポリリン酸が蛋白質凝集とともにアミロイド線維を強く誘導することを明らかにした。(3) ThTサイレントな線維中間体の発見:ThTサイレントな線維中間体をもとに、アミロイドが主鎖主体の構造状態であることを提唱した。
今年度が最終年度であり、当初の計画に従って研究を進めると共に、蛋白質凝集の原理解明とその生命現象における意義を明らかにすることをさらに目指す。特にこれまでの研究から、蛋白質のアミロイド線維形成とアモルファス凝集との関係が、溶質の結晶化とガラス化の関係に類似していることを提案してきた。さらにこのような概念を発展させる。また、線虫と超音波を用いたアミロイド線維の強制的な誘導システムを構築すると共に、これを用いて細胞内夾雑系における蛋白質凝集機構の研究や、さまざまな薬剤の凝集促進あるいは抑制効果についても、研究の発展を目指す。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 2件、 査読あり 6件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 4件) 備考 (1件)
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