研究課題/領域番号 |
15H04364
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
西坂 崇之 学習院大学, 理学部, 教授 (40359112)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | アーキアべん毛 / アーキアラ / ハロアーキア / IV型分泌装置 |
研究実績の概要 |
生命科学の未踏の領域である「古細菌(Archaea、アーキア)遊泳の分子メカニズム」を解明する。運動装置の構造、それが生み出す流体への推進力の定量化、さらには、装置の単位素子が生み出すステップを検出し、新規の分子モーターにおける化学―力学共役の詳細を明らかにする。 極限環境で生息するアーキアべん毛は、理解が進んでいる真核生物の分子モーターや大腸菌の回転モーターと異なり、分泌装置がベースとなったATP駆動による独自の運動機構を備えていると考えられている。細菌学のみならず、生物物理・進化・タンパク質科学・ナノマシンデザインからも注目すべき課題であるはずだが、培養条件や実験の再現性の難しさから、未だ大きな進展は見られていない。本課題により、アーキアモーターという新しい研究分野を開拓する。 平成28年度において、アーキアに関する重要な成果については原著論文として取りまとめることができたため、29年度では、アーキアべん毛がバクテリアにおいて機能している「シアノバクテリアのIV型線毛」について研究を進めた。アーキアモーターを対象にした研究で開発された様々な顕微鏡技術に加え、照射する光の方向性を制御するという新しい切り口を加えた。この新しい技術によって、走光性を持つバクテリア(Synechocystis sp. PCC6803)の運動が制御される仕組みの基礎を解明することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本課題は申請段階では、ハロバクテリア・サリナラムもしくはハロバクテリア・ボルカニというアーキアを研究対象にしてスタートしており、2016年度に生物物理学の分野で初めて報告することができた(Nature Microbiologyに掲載)。またそこで開発されている観察方法や解析手法は、他のバクテリアの微生物であるスピロプラズマ、シネコシスティス、サーマス・サーモフィラスといったさまざまな研究対象に派生し、米アカデミー紀要といった一流科学誌に原著論文として発表された。本課題で産み落とされた独自の顕微鏡技術が、バクテリア運動という分野にあますところなく応用され、そして新しい生物物理学として結実する独自の研究の方向性が示されつつある。
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今後の研究の推進方策 |
アーキアラ・モーターが発生するトルクの3次元精密測定を実現する。現在進んでいる前段階的な測定では、アーキアラ・モーターは速度一定型であることが示唆されているが、興味深いことに、これは入力がATPの化学エネルギーである点と矛盾する。恐らくは、アーキアべん毛自体の粘性抗力に対する寄与が予想より高く(バクテリアの測定ではこの点は無視されることが多い)、結果の解釈に対して、理論が十分に追い付いていないためだと考えられる。実験サイドから、流体の粘度の調製やべん毛の長さの可視化などを通じてより正確な見積もりを行い、必要に応じ、共同研究者の助けを借りながら理論を補強する。
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