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2015 年度 実績報告書

高分解能変動電位透過観察技術の開発と液中生物試料の解析

研究課題

研究課題/領域番号 15H04365
研究機関国立研究開発法人産業技術総合研究所

研究代表者

小椋 俊彦  国立研究開発法人産業技術総合研究所, バイオメディカル研究部門, 上級主任研究員 (70371028)

研究期間 (年度) 2015-04-01 – 2018-03-31
キーワード走査電子顕微鏡 / 誘電率 / 液中観察 / 非染色 / 培養細胞 / バクテリア
研究実績の概要

水液中の生きた細胞や細菌をナノレベルの高分解能で観察する新たな観察技術(高分解能変動電位透過観察法)を開発し、これを用いた様々な細胞の動的メカニズムの解明を目標とする。本装置では、従来の走査電子顕微鏡(SEM)では観察が困難であった、水溶液中の非染色・非固定の生物サンプルをナノスケールの分解能で電子線のダメージが無く、高コントラストでの撮像を可能とする。
本年度は、電位透過観察技術の根幹となる水溶液観察ホルダーの高分解能化と観察システムの高感度・高速化を行った。本システムによる分解能は、水溶液中の生物試料を封入する耐圧薄膜の厚さにより大きく影響を受ける。耐圧薄膜は窒化シリコン膜(SiN膜)により構成されており、これまで使用しているSiN薄膜の厚さは50nmであるが、これを20nm以下に薄層化し、さらに薄膜上部のタングステン層を10nm以下とすることで、より高分解能化を達成した。また、検出アンプのSN比を向上させるため、より低ノイズのオペアンプを使用し、さらに電源電圧を2倍に高めることで、高感度化を達成した。また、培養細胞を観察するための、特殊な培養ディッシュを開発し、生きたままの培養細胞を直接観察することを可能とした。こうした、培養細胞の取扱いを行うため、本予算で購入したバイオセーフティ―レベルIIの小型安全キャビネットを使用した。加えて、電子線を薄膜に照射した時の電界の変化を解析するため、専用の電界シミュレーターを購入し解析を進めた。これにより、観察ホルダーの形状や薄膜の組成を分析し、最適な形状を求めることを可能とした。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本年度は、窒化シリコン薄膜の厚さを50nmから20nmへと薄層化した。さらに、検出系アンプのSN比を向上させることで、分解能とコントラストの向上を図ることが出来た。こうした改良によりタンパク質の画像の分解能も飛躍的に向上し、今後3次元解析が可能になると予想される。また、観察ホルダーを改良することで、培養細胞の観察を可能とした。これにより、様々な種類の細胞を非染色・非固定で観察することを可能とした。さらに、電子線に起因する電位変化とホルダー内部の電位分布を解析するため、電位シミュレーターを用いて観察ホルダーの数理モデルを作成し、シミュレーション解析を行うことで、ホルダーの最適化を加速させた。以上の成果は、当初予定していた研究計画の内容をほぼ達成しており、おおむね順調に進展していると考えている。こうした成果は、国際誌に2本の論文として掲載された。

今後の研究の推進方策

今後は、観察ホルダー内部に紫外線照射システムを導入し、紫外線照射により薬物を放出するケージド試薬の制御を可能とする。これにより、培養細胞を観察ホルダー内に封入し、同時にケージド試薬を混入させることで、試薬投入時の細胞の内部変化や細胞膜の構造変化をタンパク質複合体レベルで解析することを可能とする。そのため、この波長帯の高輝度紫外線LEDを観察ホルダー下部に設置し、外部信号により発光制御を行う。例えば、神経細胞とケージドグルタミン酸を観察ホルダー内に混入して封入し、グルタミン酸受容体のある神経細胞のシナプス部に紫外光を照射することでグルタミン酸を投与し、シナプス放出や形状の変化を捉える。現在、高輝度の紫外線LEDが多数販売されており、値段は一個が1万円程度である。これらを部品として購入し、独自に観察ホルダー内に設置する。これに加えて、組成分析を行うための電子線変調周波数を引き上げ、スペクトルによる解析を可能とする。従来の変動電位透過観察法では、電子線の変調周波数を30~60kHzとかなり狭い帯域で観察を行っていた。30kHzと60kHzの観察画像の比較では、60kHzの画像が少しシャープになり分解能の向上が確認されている。そのため、電子線の変調周波数を100kHz~1MHzまで引き上げ、様々な周波数で画像を取得することにより透過率の違いを分析し、観察試料内部の組成の違いを明確にする方法を開発する。さらに、ある特定の興味深いサンプルの箇所に対しては、電子線を所定の箇所に照射しながら、周波数を連続的に変化させることで周波数プロットを求め、より詳細な組成の分析を行う方法を開発する。

  • 研究成果

    (4件)

すべて 2016 2015

すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件)

  • [雑誌論文] 誘電率顕微鏡による液中の生物試料やナノ粒子の観察2016

    • 著者名/発表者名
      小椋 俊彦
    • 雑誌名

      ぶんせき

      巻: 496 ページ: 126-131

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Nanoscale analysis of unstained biological specimens in water without radiation damage using high-resolution frequency transmission electric-field system based on FE-SEM2015

    • 著者名/発表者名
      Toshihiko Ogura
    • 雑誌名

      Biochemical and Biophysical Research Communications

      巻: 459 ページ: 521-528

    • DOI

      doi:10.1016/j.bbrc.2015.02.140

    • 査読あり / オープンアクセス / 謝辞記載あり
  • [雑誌論文] X-ray and Cryo-EM structures reveal mutual conformational changes of kinesin and GTP-state microtubules upon binding2015

    • 著者名/発表者名
      Manatsu Morikawa, Hiroaki Yajima, Ryo Nitta, Shigeyuki Inoue, Toshihiko Ogura, Chikara Sato, Nobutaka Hirokawa
    • 雑誌名

      EMBO Journal

      巻: 34 ページ: 1270-1286

    • DOI

      DOI: 10.15252/embj.201490588

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] 走査電子顕微鏡による新規の液中観察技術の開発2015

    • 著者名/発表者名
      小椋 俊彦
    • 雑誌名

      オレオサイエンス

      巻: 15 ページ: 511-516

    • 査読あり

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公開日: 2017-01-06  

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